2008年12月15日月曜日

大阪西梅田周辺の野外彫刻

JR大阪駅の前にはモダンな超高層ビルが林立するようになりました。そのビルと調和するように野外彫刻作品が展示されています。

 たとえば、ジャンポール・オーベのような伝統的な具象彫刻からケネス・スネルセンのような抽象作品までバラエティに富んでいます。

 特に、谷山恭子と松永真の両アーティストの作品が高層ビルを囲むように展示されているのは見ものです。ビルを見上げながら彫刻作品との調和を楽しむことが出来ます。

1)ジャンポール・オーべ Flower Fairy


フランスの彫刻家ジャンポール・オーべ (Jean- Paul Aube 1837~1916)の「 Flower Fairy(花の妖精)」という作品です。 

 ザ・リッツ・カールトンホテルの駐車場入口の緑の木々の中にこの妖精はいます。 実に気品に満ちた美しい姿です。古典的な美とはこのような作品をいうのでしょうか。「美に見せられる」 そのようなエネルギーえを持っています。

 妖精は手に花を抱え、つま先立ちをしている姿は優雅そのものです。 周りの緑にマッチした正統派の彫刻作品です。

 山さんお薦めの一見の価値がある作品です。

2)堀口泰造   カルメン


堀口泰造 (ほりぐち たいぞう 1993~  )の「カルメン(1970年製作)」という作品です。新サンケイビルの入口ホールに設置されています。
 
 体全体からあふれ出ているエネルギーを感じます。フラメンコの情熱的な踊りが迫ってきます。カスタネットとフラメンコギターの音がこの作品から聞こえています。

 ついつい「オーレ」と叫びたくなりました。




3)鈴木政夫 花の二人



石を叩きつづけてきた彫刻家鈴木政夫(すずき まさお 1919~2002 )の「花の二人」という作品です。

  温かいぬくもりのなかに二人の人間の愛とそのエネルギーを感じます。ジワ~と心を揺さぶられる作品です。

  鈴木の言葉に「これらの石仏群の大半(道祖神)が,今も庶民の生活の中で生きて祭られており,部落のシンボルの役目を果たしている。彫刻的感動以前の,人間本来の「いのち」の感動を放っている。」私は,しっかりと風土に根ざしたこれらの石仏群に感動し,身を震わしたのであった。

 まさしくこの作品は「いのち」の感動を持っています。手を合わせたくなる人間の根源的な面を表現している作品です。

その他の作品は「 アートを楽しむ山さんの美術散歩 」を参照ください。

合掌 山さん


2008年12月4日木曜日

大阪市中之島緑地とその周辺の野外彫刻


  地下鉄の御堂筋線淀屋橋駅で下車すると、そこには中之島緑道と明治24年(1891年)に大阪市で初めて誕生した中之島公園のがあります。

  堂島川と土佐掘川の真ん中にある約1.5kmにおよぶの緑色のベルト地帯です。公共施設や美術館とがあり文化豊かなところです。


特に中之島緑道は400mにわたり10体の彫刻と緑豊かな花々があります。その周辺には、ブルーデルの作品や日本を代表する彫刻家の作品が設置されています。12月の夜には中之島公園一帯には光のイルミネーションがなされます。(上図をクリツクすると拡大)
 彫刻もライトアップされているので、ちょっと寒いですが、12月の夜に見に行かれることをお薦めしまします。

1)トム(トーマス)・ シャノン Hi_Phi

 関西電力本社ビルの入り口にあるトム・シャノン(Thomas SHANNON 1947~ )の「Hi_Phi(ステンレス 2004年製作)」という作品です。


 この3つの物体はなんだろうかといろいろ調べてみました。するとこの作品はこの企業の経営理念の一つである「成長する力」を表現しているとのことでした。


  また、3つの大きさは、「1:1.618」からなる最も美しい黄金比率で出来ています。そうして、最初の玉が「安定」、真ん中が「成長」、最後が「力強さ」を表しているのでしょうか。そのように考えてみると納得は出来ますが・・・・・・・ 。


 Hi_Phi(ハイファイ)の意味は「原音や原画に忠実な再現」ということなので、成長していくさまの本質を表現しているのでしょう。実に不思議な物体が、空間に浮かんでいるように思えます。


2) 天野裕夫 十魚架

天野裕夫 (あまの ひろお 1954年~ )の「十魚架(1989年設置)」という作品です。


 十字架ではなくて、十魚架とは。その想像力に脱帽です。大きな足、それに垂直に立っている人。その体を水平に貫いている魚。独自の世界を持っています。


 天野は「30年も作っているとこうすればこうなると頭の中で考えるようになる、しかし、頭でイメージして作れることは割合限られている。自分の手を信じている。


 手が作っていくということを信じてやっている」と話しています。 おそらく手が作っていくとは、頭でいろいろと考えるだけではなく、無意識の手の動きに任せるということなのでしょうか。


  創造性は無意識の働きが大きいと天野の作品を見ながら気づきました。

3)斉藤均 It blows(風標)


斉藤均 (さいとう ひとし 1948年 ~  )の「 風標(1989年設置)」という作品です。


  ステンレスの角材を丹念に積み上げた作品で、斉藤によるとIt blowsということで、「風が吹いてきたよ」ということだそうです。 


 その風はどんな風なのでしょうか。 私は緩やかな風を感じます。微妙に感じるさわやかな風です。都会の真ん中の気持ちの良い風です。


 斉藤のHPではIt blowsの多くの作品をインターネットで見ることが出来ます。お薦めのページです。 




残りの作品は「アートを楽しむ山さんの美術散歩」で楽しんでください。

合掌 山さん

2008年11月24日月曜日

夕日の見える美術館-サントリーミュージアム天保山


 地下鉄大阪港駅から海に向かって徒歩約10分にある海辺の美術館です。

 このサントリーミュージアム(天保山)はサントリー株式会社の創業90周年事業の一つとして1994年、創業の地大阪・天保山ハーバービレッジに誕生しました。  ミュージアムは、アートの企画展を行う「ギャラリー」と巨大立体映像の「アイマックスシアター」があり、それにレストラン、カフェ、から成っています。

  建物の設計は大阪出身の建築家・安藤忠雄で、じょうろのような形をした部分と長方体が海に突き出た部分が合体した不思議な形の建物です。


 天保山一帯を散歩するのもよし、世界で最大級の水族館である海遊館でジンベイザメを見るのもよし、不思議な形をしたミュージアムを楽しむのもよし、アートや立体映画を楽しむこともよし、では山さんの5つの楽しみ方を紹介します。


1) 日本一低い山の天保山を楽しむ




 地下鉄大阪港駅(登山口)を下車して約10分海に向かって歩くとそこには、1831年に土砂を河口に積み上げて作られた人工の岡があります。


 国土地理院発行の地形図には天保山と記入され、4.53mのに日本で一番低い山です。


 まずはこの日本で一番低い山に上りましょう。とはいっても4.3mしかありませんので、いわゆる岡です。

 目前には、明治天皇行幸を記念した碑(左図)や、この天保山周辺(大阪港)整備に尽力した西村捨三翁の銅像があります。


また、大阪湾につながる安治川やスケールの大きい阪神高速湾岸線天保山大橋を見渡すことが出来ます
なお、マーケットプレイスの2階にある喫茶店「山小屋」において天保山の登山者に対し証明書(10円)を発行してくれます。一度記念にいかがですか。

2)レクチャーを楽しむ(みどころトーク)



 ギャラリー会場入口横のレクチャールームでは、入場者対象に展覧会の解説がおこなわれています。女性のプレゼンテーターによる生の声で11時から1時間ごとに約10分間おこなわれています。


 私が訪れたときは、「青春のロシア・アバンギャルド」という展覧会が開催され、その説明がおこなわれていました。 ロシアの絵画史についてはマレーヴィチしか知らない私にとっては、ロシア絵画の流れ、特にロシア・アバンギャルドについて事前に説明してもらったことはたいへん助かりました。


 しかも、テープや映画ではなく毎回生の声で説明されることが美術館への親近感を生み出すしているように思えます

山さんお薦めのレクチャーです。 開始時間は次のとおりです。


 11時・12時・13時・14時・15時・16時・17時の1日7回実施。

3)企画展でマレーヴィチを楽しむ

 詳しくは、昨日のブログを読んでください。


4)海遊館を楽しむ





美術館の隣には有名な水族館「海遊館」があります。


 開館当時は大勢の客で待ち時間が大変ながく見るまでに疲れてしまっていましたが、現在は全くそのようなことがなく、スムーズに入館することが出来ます。


 巨大な水槽で、光に照らし出されたジンベイザメが悠々と泳いでいる姿は神様がくれた自然なアートです。ぜひ訪れたいところです。 


営業時間 :10~20時 入場料  :2000円


5)スカイラウンジでお茶を楽しむ


 


美術館には2つのカフェがあります。


 2Fにある「カフェ・ソレーレ」と9Fにある「スカイラウンジ」です。 私は45mの眺望を楽しむために、今回はスカイラウンジに行きました。2Fから直通のエレベータがあり、9Fへすぐに行くことが出来ます。


 スカイラウンジからは、、ガラス張りの向こうに大阪湾が広がり、淡路島、六甲の山並をみながら、夕陽を楽しめる空間が広がっています。


 夕日を見ながら、食事をすることは人生の幸福の一つですね。山さんお薦めの場所です。ぜひ、夕日の時間を楽しみましょう。  営業時間:11:30~20:30 


6)トクトク情報


大阪湾の夕日を鑑賞する 

 美術館は目の前が大阪港です。ここは昔から夕陽の名所として知られおり、大阪の名所のひとつです。現在(秋から冬)の季節は、淡路島に沈む夕日を見ることが出来てその絶景を美術館から楽しむことが出来ます。ぜひ、この夕日を楽しんでください。

そのためにも、夕方にかけて美術館にいかれることをお薦めします。 美術館は開館時間は10:30~19:30



 建築デザイン関連書や美術書・絵本まで多くの本や美術グッズがおいてあります。逃げまわる目覚まし時計ナンダクロッキー(8400円)をはじめとして、オリジナルなものもたくさんあります。 


7)アクセス



・大阪市営地下鉄 中央線「大阪港」駅1番出口下車徒歩約5分。なお、JR大阪からは、環状線「弁天町」駅で中央線に乗換です。
・入場料金:一般 1000円


合掌 山さん

2008年11月23日日曜日

野外彫刻 神戸地下鉄 西神・山手線周辺

 神戸の三宮から地下鉄に乗り、約20分。まずは、名谷駅で降りましょう。そこには、日本彫刻界の巨匠柳原義達をはじめとして5つの作品があります。

 次の総合運動公園では、1985年のここで開催されたユニバーシアード神戸大会を記念する作品が設置されています。
 
最後に、終点の西神中央駅では、パークアベニューを中心として、バラエティにあふれた作品があります。具象あり、抽象ありで彫刻作品を十分に楽しむことが出来ます。


1)柳原義達 勝利者の像
  この作品は、1985年に神戸で開催されたユニバーシアード神戸 大会を記念して彫刻界の巨匠 柳原義達(1910~2004)によって製作された作品です。

 タイトルは「勝利者の像」と命名され、記念競技場の正面に設置され、像の周りには優勝者の名前が彫られています。

 作品の姿は右手の握りこぶし等柳原の代表作「犬の唄」に似ていますが、表情は異なっています。 正面を見据え、自分の力を出し切った誇り高き競技者のさわやかな顔を表現しています。じつに気持ちのいい顔ですね。


2)岩城信嘉  かたらいの譜
 
岩城信嘉(いわき のぶよし 1935~  )の「かたらいの譜(1983年製作)」という作品です。

 石の作品でこれだけのねじれた大空間を製作するのは大変だったろうと思います。よく立っているなあというのが実感です。

 途中で隙間があります。親子の会話でしょうか。それとも恋人同士の会話でしょうか。なにか人間同士が、仲良く話しているように見えます。









3)高田大  蜃気楼
 高田大(たかだ だい 1958~  )の「蜃気楼」という作品です。
 
 蜃気楼とは、「遠くの景色が通常とは違ったように見える現象」ですが、この作品は異次元の雰囲気を持っています。

 長方形の石の上に、半分の顔しない人物の上半身が乗せられています。右手がありますが、手のひらは不思議な方向(逆向き)になっています。もしかしたら本人の手ではないかもしれません。

 私たちの中の無意識の人物像となにかシンクロするものを持っているのかもしれません。ゆれては消えていくイメージのように揺らぎを感じます。






その他の作品は「山さんの美術散歩」を参照してください。


合掌 山さん

マレーヴィチの無対象絵画を楽しむ

さて、今回は現代抽象絵画の始祖の1人であるカジミール・マレーヴィチ(1878~1935)の作品と2回目の対面をすることになりました。

最近、彼の作品がサザビーズのオークションで約59億円で落札されとのことで、注目の画家です。  

彼の主張していた無(非)対象絵画のシュプレマティスム(絶対主義)は、誰よりも早く、高く、そして深く、完全なる究極の抽象絵画の道を開きました。
それゆえに難解です。当時の人々はさぞ驚いたことと思います。「なんだ!これは」と。 

彼の著書である「無対象の世界」を読みましたが、これまた見事に跳ね返されてしまいました。わかるようでわかりません。  

現在の私の結論は、 

絵に対する人間が築いてきたすべての概念を剥ぎ取って、剥ぎ取って、剥ぎ取ってしまって(感覚の純粋さ)最後に残っている純粋な形と色-それを表現したのがマレーヴィチのシュプレマティスム作品ではないでしょうか。彼が指摘している純粋な感覚の絶対性とはこれを意味しているように思えます。

 大胆なチャレンジです。今までの絵画の歴史を覆す壮絶な戦いであったと思います。 
しかしながら、シュプレマティスム作品がそれを表現しているかどうかは私にはわかりません。
見えるのは戦いの結果としての作品だけで、私が妄想の中で想像するしかありません。 

彼の絵を前にして私達は、純粋感覚の世界へいざなわれ、今までに私達が築いてきたアートの概念と戦わなくてはなりません。そのことで私達の脳はフル回転し、世界をさらに広げてくれます。

それがマレーヴィチの世界の入り口です。  

マレーヴィチの言葉です。

 「創作は、自然界で創造されたものそのまま借りるのではなく、実物の基本的なフォルムの繰り返しも修正もない美術的な塊を基にしたフォルムで構成される絵画のみ存在する」

  合掌 山さん

2008年10月5日日曜日

大山崎山荘美術館

  坂道を登り、トンネルを抜けると、やさしい小鳥達の声が出迎えてくれます。

 大阪と京都の境、秀吉と光秀が信長の死後覇権を争った天王山麓にあるのがこの「自然とアートが一体になった大山崎山荘美術館」です。


 大正から昭和にかけての実業家加賀正太郎が別荘(1928~29年ごろに完成)を建て、いろいろな経緯をへて、アサヒビールがこの山荘を購入し、京都府、大山崎町の協力も得て、安藤忠雄設計による新館(1995年竣工)とともに、1996年に美術館として開館されたものです。

 風景を楽しむのもよし、民芸作品を見るのもよし、モネの睡蓮をみるのもよし、では山さんの5つの楽しみ方を紹介します。

1)睡蓮の池を楽しむ

 モネの住んでいたジヴェルニーの自宅の庭にある睡蓮の池とおなじように、この美術館には本館横と新館前方に睡蓮の池が2つあります。

 薄い緑色の水と睡蓮の緑が見事なコンビネーションで緑の色彩を表現しています。周りは深い緑の草花や木々たちです。緑のハーモニーが織り成す風景はさわやかな音楽を奏でています。

 時に池の湖面が光にキラキラと輝き、モネが表現した本物の光を見ることがここではできます。色と光の華麗な饗宴の場です。光と色を楽しめる空間は実に気持ちの良いところです。


2)本館とコレクションを楽しむ

 アサヒビールの初代社長であった山本爲三郎が収集し、美術館設立にともに寄贈された作品(山本コレクション)が展示されています。

 民芸(民衆的工藝)活動をサポートする中で河井寬次郎(1890~1966)、濱田庄司(1894~1978)、バーナード・リーチ(1887~1979年)、富本憲吉(1886~1963)らの陶芸作品、芹沢銈介(1895~1984)の染色工芸、河合玉堂(1873~1957)、川端玉章(1842~1913)らの作品の収集を行い、現在展示されています。

 小さな作品が多いのですが、河合、川端の季節の作品は日本の季節感を感じさせる優れた作品です。
 
私は柳宗悦の座右の銘「茶偈」が気になりました。 「如何ナルカ コレ茶陀羅尼(茶の道は仏の教えのように奥深い)」
 宗悦の茶に関する意気込みを感じさせる言葉ですね。

 また、めずらしいミロの彫刻作品、ガレの「花文瓶」等の作品もさりげなく展示されています。なお、強烈な印象を受けたのは、受付の前のマントルピースの上に飾ってあるブラマンクの「花瓶の花」でした。黒と色の織り成す作品はブラマンクの希薄が乗り移っているようなすさまじい迫力のある作品です。


3)新館とモネを楽しむ

  美術館の新館は、香川県の直島にある地中美術館と同じように地下にあります
 設計者は安藤忠雄です。本館や周りの緑に配慮してでしょうか、コンクリート打ちっぱなしの目立たない小さな円形の建物です。 

建物の中は、フランスのオランジェリー美術館のようです。円形になった壁面にそって絵が配置されています。地中美術館のモネは靴をぬいで、はだしで床に座って鑑賞するのですが、この大山崎山荘美術館では、有名デザイナーの椅子にゆったりとすわり絵を鑑賞することができます。

 今回、モネの睡蓮の中で左図にある「睡蓮の花」がたいへん好きになりました。 モネの睡蓮はモネ自身の茫洋とした宇宙を表現していますが、この絵はその宇宙の中で咲いたばかりのいきいきとした花が「ぱっ」とひらいた瞬間を描いています。赤と白と黄色の力強いタッチで、宇宙に咲いた生命力を感じさせる作品となっています。


 その他、入口にはピカソの「肘をつく女」、中心にはルオーの「キリストの顔」が展示されています。


4)オルゴールを楽しむ


 本館1Fから2Fへ上がる階段にはドイツ製のステンドグラスがあります。そうして2Fの中央には、100年ほど前の古いロシア製のポリフォン・ジャイヤントというオルゴールが設置されています


 11時から1時間ごとに演奏がされます。 私はちょうどテラスでテータイムだったのですが、12時からの音楽を聴くことができました。



 オルゴール独自のまろやかな音は聞く人の心を癒します。幸せを感じるときです。

5)オープンカフェでお茶を楽しむ

 2階のテラスにはオープンカフェがあります。そのテラスからは遠くに木津川・宇治川・桂川が見えます。そうして、この川は大山先崎の前で合流し淀川として、大阪平野をうるおしています。さらに山荘内の庭園を見渡し、緑も十分に楽しむことができます。

 今回私はクッキー付のダージリンティー(450円)とリーガロイヤルホテルのショコラケーキ(350円)をオーダーしました。
 MINTON社の伝説のカラーバリエーションHADDON HALL BLUEのテーカップは今回の「青のコレクション」にちなんだ粋なはからいですね。
 
ダージリンの深みのある渋みとまろやかな味のショコラケーキは絶妙なコンビでした。大阪平野を望みながら紅茶を味わう時は至福の時間です。

6)アクセス



・阪急大山崎駅・JR大山崎駅から歩いて約10分。急な坂を上るためにシャトルバス(無料)を利用させることをお薦めします。
 このバスは阪急⇒JR経由で約5分程度です。

 1時間に3本あります。具体的には、阪急大山崎駅から‥毎時0、20、40分 (但、12月11日~3月10日は毎時0、30分) 、JR山崎駅から‥毎時5、25、45分 (但、12月11日~3月10日は毎時5、35分) どちらも12時台は運休、10時から運行されています。

・美術館の傍に、宝積寺の3重塔があります。それを見学するのは、急坂を登る必要がありますので運動靴が必要です。(美術館より歩いて10分)

・入場料金:一般 700円

合掌 山さん

2008年9月26日金曜日

コロー 真珠の女

 現在神戸市立博物館で「コロー 追憶の変奏曲(9月13日~12月7日)」という展覧会が開催されていますで、今週早速行ってきました。

 この展覧会を見るまでは、コローというと「風景画家」というイメージがありました。

 今回は風景画とともに、18点の女性の肖像画が展示されいました。 実に魅力的な肖像画がありました。肖像画家としてもコローは魅力あるアーティストであることを実感しました。

 特に私が凄い作品だなあと感じたのは、左図の「真珠の女」と「青い服の婦人」の2作品です。

 どちらも素晴らしい作品ですが、今回は「真珠の女」の焦点をあてて考えてみたいと思います。

 正面をじっと見ている端正な顔の作品は、 見事な作品で他の肖像画よりも光り輝いています。
 
 まず、構図を見てみましょう。もともとこの作品は「コローのモナリザ」といわれています。そこで、レオナルドのモナリザと構図を比較してみました。



 左図に示しているように、両作品ともほとんど同じ構図です。異なるのは右手の角度です。画面と平行に手の位置を配置していますので、安定性がましています。



 このようにほとんど同じということは、コローは自らがモナリザを意識してこの作品を制作したのではないかと思われます。


 コローとダビンチは、お互いに一生独身で、母親を強く意識していたということ、両者ともこの作品を死ぬまで自分の傍においていたという点で共通点があります。
 二人とも母親への強い思いがあったことと私は想像します。

 しかしながら、あまりにその思いが強いと、頭の中での想像力が膨らみ実態とかけ離れたイメージが出来上がります。

  ドイツの哲学者ディルタイは、「頭の中で考えた対象を理解するだけでは本当の理解ではなく、自らの体験を通じて理解できる」と述べています。体験や表現をしないと人間は純粋な思いだけがだんだん広がり、現実のものとはかけ離れたものになってきます。それだけ純粋培養されたイメージだけが膨らむことになります。体験-表現-理解のサイクルをまわして初めてわかるのです。

 二人の作品は理念化された女性像を描いているような気がします。そのために、どうしても人間を感じさせない作品なのです。人間の匂いがしないのです。

 左図はダビンチと同時期に描かれたラファイエロの「ラ・ヴェラータ」ですが、実に人間(女性)を感じさせる作品です。この作品はラファイエロの恋人を描いたといわれていますので、二人の関係がこの作品にはにじみ出ています。人間臭い作品なのです。

コローの作品は、人間臭さにかけますが、なぜか私は惹かれるのです。私も自分の母親を理念化しているのかも知れません。

 なお、この展覧会の招待券を下さった田村さんにお礼申し上げます。

合掌 山さん

 

2008年9月23日火曜日

伊丹市立美術館とみやのまえ文化郷

兵庫県伊丹市の「みやのまえ文化郷」のなかにある「伊丹市立美術館」を今回は訪問しました。

 この伊丹市立美術館は1987年11月に柿衞文庫の建物が増築されて、その文庫との共同利用ということで開館しています。ですから、柿衛文庫と美術館の入口は同じですし、両方を楽しむことができます。 
 
美術館は、オノレ・ドーミエ(1808~1879)・コレクションでは世界有数の美術館です。1,800点の諷刺版画、49点の彫刻、4点の油彩があります。ドーミエの諷刺とユーモアがある作品を見ていると、心がほっとして笑いが自然にこみ上げてきます。 
 
また、柿衛文庫には俳書を中心とする書籍約3500点、軸物や短冊など真蹟類約6500点があり、日本三大俳諧コレクションとなっています。松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶、正岡子規、夏目漱石等の作品があります。 更に、枯山水の庭園、清酒醸造で栄えた江戸期の伊丹の象徴である旧岡田家住宅があり、江戸時代にタイムスリップすることができます。 
 
実にここは文化の香り豊かなところですね。その感覚がにじみ出ています。では、山さんの4つの楽しみ方を紹介します。

1)彫刻作品を楽しむ

 阪急伊丹駅から美術館へ行く途中に、河合隆三の少女と犬の石の作品がさりげなく置いてあります。ぜひ、見てみましょう。本当に品のある愛らしい作品です。 

 館内外には多くの彫刻作品が展示されています。入口正面には、ブルーデルの巨大な「ドーミエ像(頭部)1927年製作」があります。その横には、その昔、頼山陽がその柿のおいしさで感動した柿の木でつくった大久保英治の「つどい(1994年製作)」があります。 

 今回私が一番感動した彫刻作品は、柳原義達の代表作「犬の唄(1950年製作)」です。ポートアイランドにある作品と姿勢が異なりますが、まじかでみると凄い作品です。ロダンの作品を思い浮かべるような表情、右手首を犬のように曲げ、膝をちょっとだけ曲げている姿は人間の感情表現を見事に表現し、内面の生命エネルギーを感じます。 

 更に、堀内正和の「球もまた空にかえってゆく(1967年製作)」、今村輝久の「’90年封じられた時限2(1990年製作)、ブルーデルの「剣をもつ兵士(1898年製作)が展示され、庭にはブルーデルの「牧神と山羊(1908-1909年製作)」、江口 週の「遺された時 蔵の組舟(1992年製作)」があります。 これらの彫刻をまじかでみることだけでも、ドーミエ作品とともに入場料200円は驚きの価格です。安い!

2)ドーミエ作品を楽しむ

19世紀のフランスは資本主義の勃興と政治的な大変化をともない激動の時代でした。その時代、オノレ・ドーミエ(1808~1879)は鋭いまなざしと類まれなデッサン力で、世相や権威者(国王や政治家)などを風刺した絵を作成しました。
 
今回の展示されているのは、19世紀のパリの人びとをテーマとした「パリっ子の表情(8月30日~11月24日)」と「古代史」に関するものです。

 当時のパリ市民の普通の生活を鋭く風刺した作品は、思わず「なるほど、わかる、わかる!これはうまい!」と声を上げたくなる面白い表現がちりばめられています。特に、私はデフォルメされ表情-目、鼻、口に風刺の本質が表現されている思います。現在の私達からみても「あまり変わりばえがしない」人間の本質(精神)をズバリ見せられました。
 
また、それぞれの作品にはすべてドーミエのコメント(解説)が書かれており、面白さを倍増させています。たとえば、左図の場合は、「素晴らしきトロイアの煙吹く城壁の上で、神々の息子メネラオスは、贅なる供物が如き金髪のヘレネを強奪し、彼が王宮へ連れ帰る、慎みと愛で、ヘレネの姿はいよいよ美しく。」などです。

 ドーミエがこの古代のトロイの物語をつかって当時の何かを風刺しているのでしょうが、腹が出た二人の姿には思わず笑いがこみ上げてきます。  ドーミエに興味を持ちましたので、早速昨日アマゾンでドーミエに関する本ードーミエ諷刺画の世界 (岩波文庫) を発注したところです。

3) 柿衛文庫を楽しむ

 江戸時代は酒産業で栄えた伊丹は、一方で俳諧文化が花開き、頼山陽をはじめとして文人の往来が多くありました。このような中ではぐくまれた文化遺産を故・岡田利兵衞(俳号・柿衞) が収集したものを土台にしたのが柿衞文庫です。

 美術館は柿衛文庫と併設されていますので、今回は、この文庫を見ることにしました。
 もともと文学にはまったく興味がない私でしたが、芭蕉、西鶴、漱石、蕪村などの自筆の句短冊を見て、このような字を書いたんだなと興味を感じました。

 左図は松尾芭蕉の有名な俳句「古池や蛙飛込水の音」ですが、流れるような芭蕉の字は実に美しくしいですね。

 なお、同時開催で、今森光彦の写真展が開催されています。里山の美しい写真にあふれていました。





4) みやのまえ文化郷でくつろぐ

 美術館の庭を出て、左側に大きな古い館(左図)があります。それが、旧石橋家住宅と旧岡田家住宅の2つが並んであります。 

 どちらも伊丹が酒造で栄えた江戸時代の建物です。特に、岡田家住宅は、現存する最古の酒蔵で、重要文化財となっています。 

 家の中にはボランタリーの方々がおられ、目と目があうとすぐに「2つの家の歴史や伊丹」について優しく説明をしてくださいます。畳にすわってゆったりとこれらの説明を聞くことも楽しみの一つです。 

 現在は、「鳴く虫と郷町」というテーマでイベントが開催され、あちこちで虫の音を聞くことができます。なお、工芸センターのアクセサリーや陶器が直販されていますので、多少のお金を持っていかれることをお薦めします。素敵な焼き物やアクセサリーえお安価で購入することができます。
文化の香りいっぱいのアートシーンを楽しむことができるところです!
合掌 山さん

2008年9月21日日曜日

大阪市立美術館


 大阪市天王寺区にある大阪市立美術館を久しぶりに訪問しました。この場所は日本庭園「慶沢園(けいたくえん)」とともに1921年に住友家が美術館建設を条件に大阪市に寄贈したもので、1936年に開館している伝統のある美術館です。

 収集作品は主に大阪市民の寄付で8000点を超える収蔵品があります。現在これらの作品は、常設展で鑑賞することができます。
 
 1979年にこの建物は改修され、レトロ感覚にあふれた建物となっています。慶沢園、天天王寺公園と同じ所にあるので、一緒に楽しむことができます。では、これから、この美術館での5つの楽しみをご紹介します。



1)慶沢園(日本庭園)を楽しむ
 住友家が10年歳月をかけ、1917年に完成した小川治兵衛の作庭による林泉回遊式の日本庭園です。 

 この庭園を見るには、天王寺公園からトンネルを抜け、フェルメールの小径(愛称)の途中に慶沢園南口がありますので、そこから入ります。 

 大阪の都会の真ん中にこんな公園があるとはなんとも不思議な感じがします。都会の中のオアシスですね。 真ん中に大きな池があり、周りを周回できるようになっています。途中に小さな滝も作られており、心を癒してくれます。美術館に入る前にぜひ見ておきましょう。




2)企画展(佐伯祐三展)を楽しむ
 現在大阪市立美術館では、パリで30歳の若さで夭折した佐伯祐三(1898~1928)展が開催されています(9月9日~10月19日)。 

 佐伯の画業を5期に分けて、本人の作品139点、関係者の作品19点が展示されています。
  
 1.凝視する自己・自画像の時代(1917~24年)
 2.ヴラマンクとの出会い(第1次パリ時代 1924~26年)
 3.帰国時代(1926~27年)   
 4.燃え上がる情熱、パリ(第2次パリ時代 1927~28年)
 5.画家佐伯祐三、最後の三ヶ月。モラン、そして死(1928年)

 1人の画家の作品を139点集中してみていると、そこにはアーティストの苦闘の人生が見えてきます。パリでブラマンクから「アカデミック!」と一喝され、それを克服しようとした佐伯。確かにブラマンクの「雪の風景」と比較すると、佐伯の未成熟な部分が見えてきます。 

しかしながら、1928年の最晩年の作品は、ブラマンクの一喝を超えた頂点の作品が生まれてきます。

 それが、上の「煉瓦焼」です。 
 墨のような黒い三角形の屋根と縁取り、青い空とレンガ色の対比、細い線で描いた階段、平面の屋根と壁、遠近のレンガの階段が見事に調和しています。 この絵が一番私にとっては佐伯渾身の作品と思えました。さん然と光輝いている作品です。

 この作品に出会は私にとって人生の至福のときでした。 
 佐伯の自画像(1919年)の裏に次のような言葉が書いてあります。

 「 クタバルナ  
  水ごおりをしてもやりぬく  
  今にみろ  おれはやりぬく  
  やるぬかねばをくものか  
  死-病-仕事-愛-生活」 

 すさまじい言葉です。これらの作品を見終わると、佐伯の気迫に圧倒されて最後は疲れ果ててしまいました。

3)常設展でくつろぐ
 佐伯の気迫に疲れ果てた私は2Fの常設展へ行きました。そこには、日本近世写生画の大家の作品、円山応挙と伊藤若冲の作品、近世文人画の池大雅と浦上玉堂の文人画、そうして村上松園の「晩秋」をはじめとする近代日本画が展示されています。 

 これらの作品の前に立つと、不思議なくらい心がリラックスしてきます。佐伯の疲れを吸い取ってくれる力がこれらの作品にはありました。
 
 私が好きな作品は、松園の「晩秋(左図)」です。

 幼いころに見た母の姿を題材にした作品で、女性の品格の高さを見事に表現しています。私にとっては佐伯とは対極に位置する作品でした。見る人の心を癒す凄い作品です。




4)大阪市立近代美術館コレクションを楽しむ
 大阪近代美術館がまだ仮住まいをしているために、大阪市立美術館でこれらの作品72点が現在展示されています。 

 モジリア-ニの「髪をほどいた横たわる裸婦」をはじめとして、1900年代の質の高い作品がコレクションされています。 

 今回私が感動した作品は、チャック・クロース(1940年~ )の「ジョー(左図)1969年製作」です。最初はでかい写真(2.75mX2.145m)かなと思いましたが、実はアクリル絵具とエアブラシで描いた作品です。 

 これらの作品は「スパーリアリズムリアリズム(写実を超えた、迫真のリアリズム)」と呼ばれているそうです。

 1988年に半身不随となり車椅子の生活を余儀なくされていますが、現在も、絵筆を歯でくわえ、手に筆を縛り付けて精力的に制作活動をしている人です。 
 
写真を利用して、ドットレベルから再構成した作品は、リアリティを超えて不気味なものさえ感じます。


5)榴樹(ルージュ)でリラックスする
 美術館の2階には「榴樹(ルージュ)」という喫茶コーナーがあります。

 またB1には同じ名前のレストラン「榴樹(ルージュ)」があります。 

 昭和の雰囲気を感じさせる場所です。
芸術作品をみたら、これらの場所で、レトロな雰囲気に浸りながらリラックスをしましょう。


大阪市立美術館は、刺激と癒しに溢れたレトロ感覚の美術館です!特に、この秋は、佐伯祐三の芸術に対する強烈なエネルギーを感じることができますよ。

合掌 山さん

2008年7月20日日曜日

野外彫刻 阪急宝塚・西宮・夙川

 
今回は阪急沿線の野外彫刻を紹介します。

 特に、阪急宝塚駅の左右には世界的な現代アーティストの作品、左にアルマンの作品、右にマルタ・パンのアートが輝いています。

 また、駅から宝塚大劇場まで有名な「花のみち」があります。そこを歩くと3つの宝塚をテーマとした彫刻作品が展示されています。

その先にある宝塚大橋には兵庫県出身の新谷と淀井の代表作が展示されています。

また、阪急西宮北口で降りて、兵庫県立芸術文化センターまで歩くとブルーデルの代表作を見ることができます。 (地図をクリックすると拡大します。)

では、この中から3つの作品を紹介します。

1)廃物を芸術作品にかえる集積彫刻家(ジャンク・アーティスト)フェルナンデス・アルマン (Armand Pierre Fernandez 1928~2005)の「クレシェンド(だんだん強く 1995年 設置)」という作品です。 

約5mの高さに、色々な切断された楽器がみごとに集積、組み合わされて緑色の塔に再構成されています。楽器をこのように組み合わせることでアート作品したアルマンのイマジネーションとそのエネルギーは凄いものですね。実に個性的で迫力のある作品です。

 現在、阪急宝塚駅とJR宝塚駅にはさまれた狭い場所に設置されていますが、最高のアート作品だと私は思います。

 この作品からは、壮大な音楽-マラーの千人交響曲やベートウベンの第九合唱が聞こえてきます。


2) アモーレの彫刻家新谷琇紀(しんたにゆうき 1937年~2006年)の「MANO D'AMORE 1978年」という作品です。


 宝塚大橋に女性をモデルにした作品が橋の入口に左右に設置されています。


 手のひらの中央に微妙なバランスで、女性が乗っています。神の手の上で踊っている人の愛を表現しているのでしょうか。

一瞬の動きを捉えた姿は実に優雅な美しさをもった作品です。


3)ブルーデルのライフワークであるベートウベン・シリーズ(45の像)の「風の中のベートーヴェン」という作品です。

 兵庫県立芸術文化センターの2F入口に設置されています。

 この作品はベートウベンの内面の情熱がそのまま表現されています。周囲に強い気を発していますね。


 感動の雲にまたがり、厳しい形相で世界中を駆け巡っている姿は迫力があります。これは、ベートウベンに終生尊敬の念を持っていたブルーデルの姿そのものなのかもしれません。

ぜひ、世界レベルの作品に出会われることを願っています。

なお、他の作品は、「アートを楽しむ山さんの美術散歩」にアクセスしてください。


合掌 山さん

2008年7月14日月曜日

2つのモディリアーニ展

現在姫路と大阪でモディリアーニ(1884~1920)展が開催されています。

 一つは姫路市立美術館の「アメデオ・モディリアーニ展」(7月8日~8月3日)、もう一つは国立国際美術館の「モディリアーニ展」(7月1日~9月15日)です。
 
2つの美術館が、世界中からモディリアーニの作品を借り展示しています。姫路市立美術館は約50作品、国立国際美術館は150作品と全部で200作品を現在関西で見ることができます。

最初に感じたのは、美術雑誌で見るモディリアーニの作品と本物とでは伝わってくるものが全く違うということです。そのギャップ(表現の深さと広がり)が大変大きいのです。 首の長い変な肖像画と思っていたのですが、実物は全く異なります。今回、彼の作品ほど本物を見ることの大切さを感じたことはありません。
 
 では、2つの展示会の楽しみ方を紹介します。

1)モディリアーニの画業の軌跡を時系列で楽しむ
  両美術館ともにモディリアーニの作品を時系列で展示していますので、成長の軌跡を見ることができます。
 国立国際美術館では、モジリアーニの軌跡を 4つに分けています。

 1)プリミディヴィスム(アフリカや東南アジアの芸術)の発見(1906年~  )
  
1906年イタリアからパリへやってきて、いろいろな画風の絵を描いた時期です。表現主義らしき作品、エゴンシーレ風の作品と多くの先人達の影響を受けた作品があります。モディリアーニらしさはまだありませんが、その中に彼の芸術の才能を見出すことができます。
 
右の絵は「嘆きの裸婦(1908年)」という作品です。作品の内面から発せられる人間の不安や苦しみを感じます。



2)実験的段階へ:カリアティッド(古代神殿を支える女性像)の人物像ー前衛画家への道(1913年~1915年)
   
 理想的な石像を製作するために、カリアティッドを描いた時代です。
  モディリアーニは、ロダンが製作に使っている粘土をもとにした彫刻作品ではなく、ミケランジェロのように直接大理石をのみで彫る彫刻作品を作ることを目指していました。 そのための習作がカリアティッドです。

 右の作品のカリアティッドは1913年に製作された作品で、表情はありませんが、原始的な力強さや強烈な存在感があります。
 
 3)過渡期の時代:カリアティッドからの変遷ー不特定の人物像から実際に人物の肖像画へ
   健康上の理由から彫刻を断念して(1914年~)、色々な表現方法を模索しながら、絵を描くことに専念しはじめた時代です。

 
右の絵は「クララ(1915年)」という作品です。長い首、長い鼻、片方の目が黒で塗りつぶされている目とモディリアーニの特徴が表現されていますが、顔の形全体がが立体的に描かれていてキュビズム的に表現しています。


 4)仮面からトーテム風の肖像画へ:プリミティヴな人物像と古典的肖像画との統合

 現在に私達のイメージの中にあるモディリアーニらしい作品が製作された時期(1915年~ 1920年)です。

左図の「女性の肖像(通称:マリー・ローラサン 1917年作)という作品です。
茶色の髪、細長い鼻と首、凛とした目の表現、引きしまった口で彼女(ローラサン)の内面性を表現しています。才能溢れ、輝くローラサンの表現が実に見事です。

画面の奥から、ローラサンのコトバが聞こえてきそうです。
「私は才能溢れる女性よ!」と。


2)好きな作品をじっくり鑑賞する

全作品をざっと見たら、次に気になる作品や好きになった作品をじっくり見てみましょう。

姫路市立美術館では、左図の「赤毛の少年(1919年作)」が好きになりました。

朴訥とした少年です。

不要なものをすべて削ぎ、単純化しています。
しかしながら、じんわりと少年の存在感を味わえる作品です。

ローラサンのように光り輝いてはいません。
しかしながら、かみ締めるほどじんわりと味が出てくる、
私はそういう作品が好きです。

モディリアーニの少年に対する優しさと内に秘めた純粋性を感じます。

 こんなにもたくさんのモディリアーニの作品に出会えることは、めったにあるものではありません。
特に本物は作品から出てくる独特の雰囲気があります。
そのことで、私達は多くの感動を得ることができるものと思います。

 合掌 山さん

2008年7月11日金曜日

糸の先にあるもの-塩田千春

 大阪の国立国際美術館で開催されている「モディリアーニ展」に昨日行きました。

館内の受付B1からモディリアーニ展会場のB3へ行く途中のB2に「真っ赤な糸と靴のインスタレーション作品」が展示されていました。

 その作品の強烈さに心が躍り、ついつい見入りました。その作品を製作したのが、塩田千春です。

今回は、彼女の作品を楽しみたいと思います。

最初に目に付くのが、B2フロワーの中心に展示されている「DNAからの対話」という作品です(上の図)。

なんという迫力でしょう。
赤い糸のこの美しさはなんでしょうか。
なんというイマジネーションなのでしょう。

2135足の靴がフロワーに並べられています。
すべての靴には、この靴を寄贈された方の思いを綴ったメッセージが添付されています。
短い文章ですが、それを読んでいくと、一人一人の靴への暖かい思いが良くわかります。

そうして、これらの2135足すべての靴が、赤い糸で一点に結ばれているのです。

さてこれからが山さんの作品への読み(勝手な想像)になります。

寄贈された靴はそれぞれのそれをはいた人の人生の歩みがそこにはあります。
寄贈した時点で一人一人の思いが込められています。
運命の「赤い糸」で一点で結ばれているということは、どういう意味なのでしょうか?

塩田は次のように書いています。

「今回の展示では、それぞれの靴を赤い糸で結びその記憶の中心となるものを探って行こうと思っています。不在の中で語り続ける靴の記憶の凄みを皆様に見ていただければ光栄に思います。」

2135人以上の靴を通して、 そのぞれの記憶の中心となるものとは?

う~ん、 私は人生の「喜怒哀楽」と読みました。
赤い糸で結ばれているこの空間から人生の喜怒哀楽の記憶が私には見えました。

8月2日のイベントで直接塩田千春から聞くことを楽しみにしています。


もう一つ驚いた作品が「During Sleep(ベットと糸のインスタレーション)」です。

大きな空間の中に病院用のベッドが10台以上置いてあります。その周りを「黒色の毛糸」がまるで巨大なくもの巣のようにベットと空間全体を網の目のように覆っています。

薄暗い空間に、白いベットが浮き上がって不気味に見えます。

ベットは生老病死の象徴のようですし、
ベットを覆っている巨大な黒い毛糸は、私達が押し込めた人間の無意識の空間ように感じました。

この空間に入ると、自分の生、病気、死などの 人生の内面の不安や暗い部分と向き合わなければなりません。

その点で松井冬子の精神と通じるところがあるような気がします。

そのほか、巨大な泥の付いた3枚のドレス(皮膚からの記憶)、トラウマの日常などの作品が展示されています。

自分の想像力を駆使して、自由な想像の空間に遊ぶことができる
そういう刺激をたくさん持ったすごい作品でした。

なお、展示作品は下記をクリックしてください。
http://www.nmao.go.jp/japanese/chiharu_shiota/works/index.html

イベント情報
 ・8月2日 作者と語る 同日午後2時より B2展示場にて
  (本人から直接作品の話を聞くことができます)
 ・8月31日 高瀬アキ(ジャズピアニスト)+塩田千春(美術) パフォーマンス 「靴が踊る、音が飛ぶ」
  (有料 2500円 事前申込) 
  HPのイベントよりメール(concert@nmao.go.jp)で申込可能(http://www.nmao.go.jp/japanese/cinema_popup/performance080831/performance080831.html
 
 特にライブパフォーマンスは楽しみです。早速メールで申込をしました。

合掌 山さん