絵画の歴史を俯瞰すると、その特徴の一つは、概念を変えるまたは拡張することにあります。
絵画は実は多くの制限の中で作成さていています。
まず、平面の2次元空間にあり、形と色というもので表現されています。印象派は色の革命であり、抽象絵画は形の革命であったと思います。
また、視覚(見る)ということが中心で、聴覚や触覚はその対象ではありませんでした。たとえば、音というものは絵画というものからは、対象としてまったく考えられていませんでした。
そうして、絵画は、ある状態の瞬間をとらえており、
動的な時間の流れを表現することはあまりありません。
最後に、作品を作る人と鑑賞する人は別れており、作品の完成は、
作り手だけができるものと考えられていました。
これらの制約を超えようとしていのが、藤本芸術の本質だと私は思います。
具体的に「SUGARIとBROOM」で見ていきましょう。
中央の台の上にあるのは、丸い筒(
オルゴールのシリンダーを
あらわしていると思いますが)
の中に、角砂糖がぎっしり入っていて、モータで筒が静かに回転しています。
傍で耳を澄まして聞いていると、時々かすかな音が「グシャ」と聞こえてきます。
周りには陶板が2段に敷きつめられています。実にきれいな色ですが、
その上を歩くと陶板が割れるのです。
「バシー」という非常に大きな音で、その瞬間は「あっ」と心で
叫びながら、びっくりします。
一度この快感を味わうと、さらに歩いて陶板を私は割りたくなりました。
そうこうするうちに、だんだんと敷きつめられた陶板は無数の割れ目ができて、
作品そのものが、変化していきます。
藤本由紀夫の作品には、形と色、音、動き、観察者の参加の各要素が
あるときはつつましく、あるときは騒がしく敷きつめられています。
この作品は、作り手の藤本由紀夫と観察者の体験や遊びを通じて
多くの人の共同の作業で完成をしていくのです。
しかも、時間の経過で、その姿は偶然にどんどん変化していきます。
ぜひ、会場では「私が藤本芸術を一緒に作るのだ!」という気持ちで、
作品で遊び、楽しみ、藤本芸術を味わいませんか。
現在藤本の展示会は4箇所で同時に開催されています。
この西宮市大谷記念館の他に、
・大阪の国立国際美術館(7月7日~9月17日)
・和歌山県立近代美術館(7月14日~9月24日)
・イタリアのビエンナーレ展
お奨めは、大阪の国立国際美術館でのアーティスト・トークで、
藤本由紀夫さんが「ビートルズの再評価」について話を9月8日される予定です。
合掌 山口
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