
今週の1枚は小磯良平の「斉唱」を紹介します。
この作品は日本が太平洋戦争にはいる2ヶ月前の1941年に描かれました。
当時、小磯は類まれな描写力を国家によって評価され、
戦争を鼓舞する従軍画家としての仕事もしなければならない状態でした。
おそらく、画家として、キリスト教徒として、人間として、
戦争画を描くことは精神的に大変辛い仕事であったと思います。
そのような中、この「斉唱」は描かれたのです。
この作品は、小磯らしい、あでやかな色彩がありません。
黒を主体として、非常に薄塗りで、すばやいタッチで描かれています。
そのような中で描かれたこの作品からは「清らな歌声」が聞こえてくるのです。
貴方も兵庫県立美術館でこの作品の前にたつと必ずその歌声が聞こえてくるはずです。
9人の少女はどんな歌を歌っているのでしょうか?
賛美歌ですかそれとも、
シューベルトのセレナーデですか。
この清らかな歌声は、小磯の心を癒したように、私たちの心も癒します。
小磯はこの作品にどんな想いをこめたのでしょうか。
私は「希望への祈り」を感じました。
希望は単なる未来ではありません。
その人の決意が希望なのです。
そこには小磯の強い意志を感じます。
平和を祈り、未来へ希望をもつ―それが斉唱なのです。
さて、9人の少女は、いろいろな方向を向いて、歌っています。
けっしてひとつの方向を見ているのではないのです。
私はここで、ふと、金子ミスズの『わたしと小鳥とすずと』を思い出しました。
「わたしが両手をひろげても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
じべた地面をはやく走れない。
わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのようにたくさんなうたは知らないよ。
すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい。」
今、私たちが失った大切なもの清らかな心と希望この作品に出会う度、
私は小磯からこの2つの宝物をいつももらいます。
合掌 山さん
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