2007年7月31日火曜日

堺市立文化館 アルフォンス・ミュシャ館の楽しみ方


今回は堺市にある「アルフォンス・ミュシャ館」の楽しみ方を紹介します。

この館は、ミュシャの有力コレクターであった故土井君雄のコレクションの寄贈を受け、ミュシャだけを展示している1994年に建てられた「世界に誇るきらりと光る美術館」です。

現在は、ミュシャ(1860~1939)の「生涯と作品(7月14日~10月8日)」というテーマで、5つのジャンルに沿って作品が展示されています。


商業広告デザイナーとしてのミュシャの出発から、有名なアール・ヌーヴォー(新しい芸術)の演劇ポスター、志をもって祖国チェコに帰国し、その地で画家として活動した作品が眩いほどに86点が展示されています。

同時に3Fには、与謝野晶子文芸館も併設されています。

ここでの楽しみ方は、ひたすら「ミュシャ」を味わうことにつきます!
そのほかの楽しみ方はなにもありません。レストランもコンサートもありません。
ミュシャ、ミュシャ、ミュシャ、ミュシャの世界だけです。

それがいいのです。
19世紀末パリの煌びやかなパリの空気を十分に感じることができます。

そうして、この美術館を作った「ミュシャと息子のジリ、土居君雄」の情熱を
感じることができる、熱い館です。

それでは、展示の沿ってミュシャの軌跡をたどります。
(なお、絵や写真はクリックすると大きくなります)


その1 商業広告デザイン
当時、経済の発展とそれに伴う宣伝の必要性とカラーリトグラフ技術の進歩で、素晴らしいデザインのポスターが大量生産できる時代になりました。
そのような背景の中で、ミュシャは華々しく登場してきたのです。

左の絵ポスターは、ミュシャがアールヌーヴォーの旗手として活躍していた全盛期の「紙巻タバコ用紙(JOB社)(1897年)」のポスターです。

艶やかでうっとりしている女性の表情と植物の根ような巻き髪。そうして右手に持つ煙草と天女の羽衣のような煙。

百年の月日が経った今でも、古いとは思いません。生きているような髪と煙の形には新しささえ感じます。
煙草の魅力を十分に宣伝する力と芸術作品としての美しさとを兼ね備えた作品です。

その2)挿入画家の時代

1888年パリに出てきた異邦人であったミュシャは、最初、雑誌の挿入絵の仕事をして生計を支えています。
そうして次第にその才能を認められ、大手出版社の挿絵挿入画家となります。
1894年ジュディット・ゴーティエの児童文学「白い像の伝説」の挿入画で名声を獲得します。

そこには、インドやタイを舞台とした東洋的なエキゾティックな絵がかかれており、
今回は、1893年に作成した「白い像の伝説」のイラスト(水彩)6点が展示されています。

当時のヨーロッパ人の東洋への憧れを感じることができる作品です。


その3)演劇ポスターの時代

1894年、クリスマスであっても働いていたミュシャに大女優のサラ・ベルナール(1844年~1923年)から幸運にもルネサンス座(劇場)のポスターの仕事が入ります。

ミュシャは劇場に行くための衣装を借り、1月の公演に間に合わせるために、たった1週間でこの作品を完成させました。それが有名な右図の「ジスモンダ(1895年)」です。

発注したサラ自身も非常にミュシャの才能を気に入り全部で7点のポスター依頼をし、この「ジスモンタ」で49歳であったサラは演劇界に君臨することができました。

街ではこのポスターの盗難があいつぎ、ミュシャは一躍時代の人となったのです。

上下に飾り文字を配置し、斜めにビザンチン風の衣装をまとわせ、頭には花冠をかぶった堂々たる美しい女性を配置したミュシャ独自の構図をここで完成させています。

私は、この作品に最初に出会ったとき、サラが何かを見つめているその目に釘付けとなりました。なにかを見つめている目ほど魅力を持っているものはありません。

当時のパリの人がこのポスターを盗んだ気持ちも、わかるような気がします。

私が尊敬している故中村天風先生が若き日に50代であったサラのパリの自宅にお世話になります。当時、27~8歳しか見えなかったと天風先生の本には書いてあります。

「お若いですな」というと「女優には年はありません」とにっこり、微笑んで答えたサラに、「この人の美しさと粋なしゃべり方に魅せられた」とあります。本当に魅力的な人であったのでしょう。
その後、天風先生は、サラから「カントの自叙伝」を読むようにとのすすめで、人生が変わっていきます。

ミュシャとサラの出会もそうであるように、不思議な運命的な出会いが人生にはあるのですね。

その4)アールヌーボーの時代

アールヌーヴォーの爛熟期にはいり、「生活環境は美しい」という考え方にもとづき、アールヌーヴォー様式が建築、家具、食器などにとりいれられます。

そのための基本的なデザインを「装飾資料集」として作成します。現在でもデザイン画として価値がある大変貴重なものです。

今回の展示では、「装飾資料集」やその習作、飾りサラ、有名なブロンズ彫刻の「ラ・ナチュール-ミュシャの息子のジリが土井君雄に依頼して購入させた」等が展示されています。

右図は飾り皿の「つた(1902年)」です。金属皿にプリントされたもので、今回は2皿展示されています。



その5)ミュシャからムハ(チェコ語の発音)へ

1908年アメリカのドイツ劇場から依頼された作品が「ハーモニー」です。

しかしながら、横4mの大作「ハーモニー」は受け入れを拒否されました。

アールヌーヴォーのミュシャをみんなは期待していたのです。
チェコ人としてのムハはスラブの神話的世界を画いたのです。

その後、75年間行方不明であったこの「ハーモニー」がシカゴで発見され、
ムハの息子のジリが土井君雄の情熱に動かされて、日本へ送付します。

今この「ハーモニー」が日本に展示されているのです。

アールヌーヴォーのミュシャとはまったく異なる作品であるために、
私も混乱しました。これがあのミュシャなのか!

1910年、50歳のミュシャは、アメリカから家族とともに故郷チェコへ帰国します。


「祖国と民族にために人として、芸術家として役に立ちたい」という考えで、
18年の年月をかけて、まったくアールヌーヴォ-とは異なった絵画手法で、
すなわち「ハーモニー」と同じ手法で、
スラブ民族の2000年の壮大な歴史超大作「スラブ叙事詩」20作品を完成させ、チェコに寄贈します。


先日テレビでこの絵を見る機会がありました。

今見ると、涙が止まらないほどすばらしいの作品です。

しかし、当時のチェコはナチスドイツに占領され、まったく評価はされませんでした。
ムハ本人も投獄され、そのために1939年なくなりました。

第2次大戦後、チェコは独立をしますが共産国として旧ソ連に占領され、
ムハの作品は同じように評価をされませんでした。

さらに、現代アートの盛んな今日において最近まで、「スラブ叙事詩」はまったく評価されませんでした。
近年やっと世界の人からこの作品は評価されつつあります。
現在は、チェコのモラフスキーのクルムロフ古城に展示されています。

皆さんも、東欧に行かれたら、この「スラブ叙事詩」に出会いませんか。
きっと、ムハやジリが喜んでくれると思います。

ムハの最後の言葉として
「人類の進歩は気温のグラフのように曲がりくねり上がってまた下がる。
道は遠い・・・しかし長い眼で見れば結局上がるのだ!」

この美術館は、「ムハとジリ そして土井君雄」の情熱が作った美術館です!


□ アルフォンス・ミュシャ館へのアクセス:JR阪南線 堺駅 徒歩3分

合掌 山さん

2007年7月22日日曜日

国立国際美術館 1枚の絵

今回の1枚の絵は、国立国際美術館のマルセル・デュシャンによる「L.H.O.O.Q.」(1919/1964年)です。


人類最高の価値ある芸術作品のひとつであるモナリザのコピーにモナリザに髭を描いて、「まあ、なんと失礼な!」とあなたは憤慨しますか?

それとも、思わず笑いますか?
それとも、「髭をつけると、ジョコンダ婦人も男性に見えるなあ」 と、面白さを感じますか?
それとも、「モナリザに髭をつけるなんて、なんてすごいやつ!」 と感心しますか?

この作品を見ているうちに、自分に向かって私は多くの質問を発するようになってしました。

・ 作品の作り手は、人間が今まで築いてきたものにただ乗りし、目に写るものを描いているだけではないのか?それは芸術的価値あるものだろうか。

・鑑賞する私は、みんなが芸術作品というから、有名だからということでその作品を価値あるものと思ってはしないだろうか。

・作品の芸術的価値は、作り手が決めるのか、それとも鑑賞者の私が決めるのか。画商が決める貨幣的価値で決まるのだろうか。それとも、長い時間なのだろうか。

・作品を作ることに価値があるのか、あるいは、私が作品の中にある芸術的価値を発見することに価値があるのだろうか。

・鑑賞者の私が、その作品を目の前において、あらゆる束縛を超えて、純粋な心で対峙することができるのだろうか?

・作り手は、自分が好むものを作ることに芸術的価値があるのだろうか。それとも、超絶技法で鑑賞者が好むものをつくることに芸術的価値があるのだろうか。

・創造性とはなんだろうか。コピーに髭をつけるデュシャンの行為に芸術的価値があるのだろうか。

・芸術作品は、キャンバス、形、色、材料、対象、空間と時間に限定されるのだろうか。

・限定されることに価値があるのだろうか。 それともそれを打ち破ることに価値があるのだろうか。

・芸術作品の完成は、何を持って完成というのだろうか。

・芸術作品とはそもそも行為(運動)の残骸ではないのか。重要なことは、作る行為やプロセスに価値があるのではないだろうか。その行為を鑑賞者の私はどうして知ることができるのだろうか。

・そもそも人間が作り出したものは、自然界が作り出したもの以上の芸術価値をもっているのだろうか。

私にとってデュシャンは、「芸術にたいする根源的な問いを投げかけつづける人」です。
この絵を見ていると、デュシャンの言葉が聞こえてきませんか。

「君にとって芸術とはなんだね?」

合掌 山さん

2007年7月19日木曜日

国立国際美術館の楽しみ方

今週は、大阪の中之島にある「国立国際美術館」の楽しみ方を紹介します。

最初は、1977年に現代美術を中心とした作品の収集・保管・展示などを目的として万国博美術館にあったのですが、2004年にシーザー・ペリアンドアソシエーツの設計で、、現在の中之島に地下型美術館としてたてられました。

地上は、ステンレスの竹林となっており、地上には美術館はありません。地下が美術館で、
地下一階は受付、レストラン、ミュージアムショップ、育児室などがあり、地下2階と3回が展示室になっています。

竹林ですから、中にかぐや姫がいるかもしれません。
入り口の1階から入り、エスカレータで地下へ行きます。

私は、勝手にかぐや姫を期待していたのですが、エスカレーターから降りたところに、やはりかぐや姫(ヘンリー・ムーアの彫刻ナイフ・エッジ)が出迎えてくれました。

では、4つの楽しみ方を紹介します。

●楽しみ方 その1

最初は、美術館そのものの空間をインスタレーションとして楽しみましょう。
ステンレスの竹林はモダンで大阪に似合わない気もしますが、それも良しです。

天に向けて羽ばたくように竹林が組まれていますので、
天使の羽のようにも見えてきます。

中に入り、エスカレータで下ると地下の大空間が出迎えてくれます。

最初は、かぐや姫ことヘンリームーアの彫刻があります。
ぐるっと周りを歩いてみましょう。
正面から見ると3.5mもあり、見上げますが、

横から見ると薄いので、ナイフ・エッジと名前がつけられたようです。
地下1階~3階まで吹き抜けの大空間があります。

そこには、つきでた場所に、椅子がありますので、
正面のジョアン・ミロの大壁画「無垢の笑い」を座ってじっくり見てみましょう。

確かに迫力はあるのですが、私には目が多くあるような気がして
私のやましい心の部分を見透かされているようで、気持ちがいい作品とは感じませんでした。

しかし、自分が好きでない作品に出会うことも、それもまた偶然の出会いです。
楽しみましょう!




●楽しみ方 その2 展示会 藤本由紀夫+/-

今回は、 先週に引き続き藤本由紀夫の作品を紹介します。

作品名は、「ブラス/マイナス」ですが、巨大な空間に、213台のBOSEの「WAVE MUSIC SYSTEM」が配置され、近づくとそれぞれの1台1台から、ビートルズの全曲(すべて異なった曲目)が聞こえてきます。

私も藤本由紀夫も1950年の生まれで、ビートルズによって音楽に目覚め、ビートルズが青春であった世代です。それぞれの曲目を聞いていると懐かしい日々を思い出します。

しかし、遠くから聴くと、すべての音が混ざり合い、
「ゴーッ」という大きなノイズ音となって聞こえてきます。 

「心地よい音楽」と「ノイズ」の同居している状態は、
私にとっては、まったく新しい経験ですので、
なかなか言語化することはできません。

私の想像を超えたこの新しい体験、やったね! 

これが私の正直な感想です。





●楽しみ方 その3 COOECTION(収集された作品の展示)

今回は、藤本由紀夫展にあわせて、抽象的な純粋性を表現した作品が展示されています。

マルセル・デュシャンの「L.H.O.O.Q.」や荒川修作の「あらゆることを忘れよ」等
61点が現在展示されています。



次回、1枚の絵でデュシャンの絵を取り上げ、
現代芸術を考えて見ます。



現代の作品は、本当に難解で、純粋に楽しむことは大変です。

その理由は、通常、芸術作品を前にして、私たちは、脳の感情システム
の大脳辺縁系で直感的に把握しようとします。

しかしながら、現代の作品は、前頭前葉で考えることー頭で考えることを
鑑賞する側に要求します。そのために、脳全体をフル回転しなくてはなりません。

脳は一生懸命に理解しようとしますが、
従来の絵画の枠を超えようとしている現代の芸術作品は簡単に理解できません。

「まあ、これもありか」と思うしかありませんが、


一方、シャーロック・ホームズのように虫眼鏡をもって、
犯人をじっくり推理していく楽しみもあります。

今年、12月18日~2008年2月11日まで、
「開館30周年記念 コレクションによる全館展示」があります。

ここで、私もシャーロックになり、現代芸術作品に出う中で、
ゆっくりと推理を楽しみたいと思います




●楽しみ方 その4 レストラン クイーン・アリス アクア



現代美術を鑑賞すると頭が非常に疲れます。
そのような時は、おいしい食事を楽しみましょう。

この美術館には、フレンチの鉄人、食と美の融合-石鍋裕シェフがプロデュースしたレストランがあります。

東京の東京国立近代美術館にも同じレストランがあり、東京は白が基調のレストランですが、

このレストランは、白と赤の2色でコーディネイトされた素敵なレストランです。


また、2ヶ月に1回、ミニコンサートも開催され、
食・美・音の三位一体の時を楽しむことができます。

入り口は、美術館からも入れますが、館外からも直接入ることができます。


営業時間は、11時~20時(火~土)、11~17時30分(日・祝日)




合掌  山さん

西宮市大谷記念美術館 1枚の絵

今回の1枚の絵は、西宮市大谷記念美術館で、現在開催されている「藤本由紀夫展」(6月30日~8月5日)から「SUGARIとBROOM」(右の写真)を紹介します。


絵画の歴史を俯瞰すると、その特徴の一つは、概念を変えるまたは拡張することにあります。


絵画は実は多くの制限の中で作成さていています。



まず、平面の2次元空間にあり、形と色というもので表現されています。印象派は色の革命であり、抽象絵画は形の革命であったと思います。


また、視覚(見る)ということが中心で、聴覚や触覚はその対象ではありませんでした。たとえば、音というものは絵画というものからは、対象としてまったく考えられていませんでした。


そうして、絵画は、ある状態の瞬間をとらえており、
動的な時間の流れを表現することはあまりありません。


最後に、作品を作る人と鑑賞する人は別れており、作品の完成は、
作り手だけができるものと考えられていました。


これらの制約を超えようとしていのが、藤本芸術の本質だと私は思います。


具体的に「SUGARIとBROOM」で見ていきましょう。



中央の台の上にあるのは、丸い筒(
オルゴールのシリンダーを

あらわしていると思いますが)
の中に、角砂糖がぎっしり入っていて、モータで筒が静かに回転しています。


傍で耳を澄まして聞いていると、時々かすかな音が「グシャ」と聞こえてきます。


周りには陶板が2段に敷きつめられています。実にきれいな色ですが、

その上を歩くと陶板が割れるのです。

「バシー」という非常に大きな音で、その瞬間は「あっ」と心で
叫びながら、びっくりします。



一度この快感を味わうと、さらに歩いて陶板を私は割りたくなりました。


そうこうするうちに、だんだんと敷きつめられた陶板は無数の割れ目ができて、
作品そのものが、変化していきます。


藤本由紀夫の作品には、形と色、音、動き、観察者の参加の各要素が
あるときはつつましく、あるときは騒がしく敷きつめられています。


この作品は、作り手の藤本由紀夫と観察者の体験や遊びを通じて
多くの人の共同の作業で完成をしていくのです。
しかも、時間の経過で、その姿は偶然にどんどん変化していきます。



ぜひ、会場では「私が藤本芸術を一緒に作るのだ!」という気持ちで、
作品で遊び、楽しみ、藤本芸術を味わいませんか。



現在藤本の展示会は4箇所で同時に開催されています。
この西宮市大谷記念館の他に、

・大阪の国立国際美術館(7月7日~9月17日)
・和歌山県立近代美術館(7月14日~9月24日)
・イタリアのビエンナーレ展


お奨めは、大阪の国立国際美術館でのアーティスト・トークで、
藤本由紀夫さんが「ビートルズの再評価」について話を9月8日される予定です。


合掌 山口

2007年7月15日日曜日

西宮市大谷記念美術館の楽しみ方

今週は、兵庫県西宮市にある西宮市大谷記念美術館を訪問しました。

この美術館は1972年に、大谷竹次郎(1895~1971)が、美術館設立を条件に、西宮市あった広大な自宅と敷地(2400坪)及び収集した美術作品(639点)を西宮市に寄付しました。

それが西宮市大谷記念美術館の始まりです。1977年には新館ならびにアトリエが作られ、1991年には増改築工事がなされて、現在の近代的な現在の建物が完成しました。

最近の財産目録によると、日本とフランスの近代絵画、地元の作家の作品、現代美術など1014点の美術工芸作品が収蔵されています。


では、この美術館での楽しみ方を紹介しましょう。


●楽しみ方1-庭を楽しむ


美術館に入ると、目の前にすばらしい庭が広がっています。

まずはこの日本庭園庭をゆっくりと堪能しましょう。


緑と水が織りなす芸術作品です。
もちろん、回遊式庭園になっており、
美術館を取り巻くように作られています。

これが住宅地の中にあるとは信じられません。

外に出てこの庭を自由に探索しませんか。
そこは鳥たちの声と、さわやかな水の音にあふれています。


大きく深呼吸をして、自然のエネルギーをもらいましょう。

ベンチに座って、目をつぶり、自然の音をききましょう。

歩いていると、ふと岡本太郎の「午後の日」や
山口牧生の「いとけなきものの船」に出えるかもしれません。



まさしくここは都会の癒しの空間そのものです。


楽しみ方2 館蔵品展 構成と色彩のリズム



クールベの「眠る草刈り女」をはじめとする名品の展示
を期待していましたが、


今回は「構成とリズム」というテーマで美術館が持っている
20作品が展示されていました。(6月30日~8月5日まで)



今回私が注目した作品は、ハンス・アルプ
(1886年~1966年 石川啄木と同年に生まれた)の
「コンポジション(原作1934年ころ)」です。

ハンス・アルプは、1954年にヴェネツィア・ビエンナーレ
国際彫刻大賞受賞した彫刻家、画家、
そして詩人として活躍したユニークな芸術家です。

私は彼の作品の中にある、ぬくもりのあるフォルムに惹かれます。

コンポジションは白、青、黒のセリグラフ(シルクスクリーン)で作られ、
純粋な抽象表現も中にある曲線のやわらかさがなんともいえませんね。

抽象絵画に人間らしさを感じることができる暖かい作品です。


楽しみ方3 学芸員によるギャラリートーク


今回藤本由紀夫展が開催されていたのですが、
最初は何を見ていいのやらまったく理解できない
不思議な展示会でした。

展示室の入り口表面に「TABLE MUSIC」という作品があるのです。
チェスバンの上に、オルゴールのねじ18が

上向きに設置されています。

何を見たらいいのでしょうか?
このねじを巻いたらいいのでしょうか?
不安そうな気持ちで見るしかないのでしょうか?


そのような時に、毎週日曜日午後2時から、
学芸員によるギャラリートークがあることを思い出しました。


玄関のロビーで待っていると、髭の池上さんが現れました。
本当に楽しそうに池上さんは、現代アートを説明されます。

そうのような中では、私たちもついついいつの間にか聞いていて楽しくなります。

最初は、口頭で説明し、次に自分で作品にさわること
(オルゴールのねじ巻き等)を行い、

最後に、私たちに同じように触ることを勧められます。


藤本由紀夫アートの本質がそうすることでわかってくるのです。
アートの完成は、
「最後に鑑賞する本人が触って参加することで完成」する。

池上さんの説明を聞き、作品を体感する中で、わかるのです。

現代アートはこのようなエバンゲリオンの存在が欠かせません。
そうすることで、難解なものもスムーズにわかってくるのではないでしょうか。


本当に楽しい解説ありがとうございます。感謝、感謝!

●楽しみ方4 イタリア・ボローニャ 国際絵本原画展


今年は8月25日~9月30日の期間
イタリア・ボローニャ国際絵本原画展が開催されています。


子供からお年寄りまで誰でも楽しいひと時を過ごすことができます。

同時に、年々日本人作家の活躍が注目を集め、今年は17名が入選し
作家の登竜門として注目を集めているものです。


毎年、多くの人が来訪しますので、早めにいかれることをお勧めします。


●楽しみ方5 Tea Room ZIP

庭の散歩や作品を見た後で、ZIPで一杯の珈琲を楽しみませんか。

庭が見える一番良い位置にあります。
山さんのお奨めの場所は窓側です。

好きな本をゆったりと読むのもいいでしょう。
新しいアイディアを考えるのもいいでしょう。


すばらしい景観を見ながらくつろぐ時を楽しみましょう。







●楽しみ方6 ミュージアム・コンサートの開催


美術館ではクラッシックコンサートが開催されています。
入館料は必要ですが、コンサートは基本的に無料です。


今回で、120回目のコンサートです。
ルガーノカルテットにより「イタリアの風」 と題して
7月21日(土) 午後2時から開催されます。


小じんまりとした講堂で開催されますので、
演奏者の息遣いがわかる位置で、演奏を聴くことができます。


おすすめのコンサートです。

なお、申込は事前に電話連絡が必要です。
詳しくは下記へご連絡ください。
西宮市大谷記念美術館(電話0798-33-0164)


●交通アクセス


・阪神「香櫨園」下車。徒歩約10分。
・JR「さくら夙川」下車し、徒歩約15分。
・阪急「夙川」下車し、夙川公園を散歩しながら、徒歩約20分。


合掌 山さん

2007年7月11日水曜日

兵庫県立美術館 1枚の絵


今週の1枚は小磯良平の「斉唱」を紹介します。

この作品は日本が太平洋戦争にはいる2ヶ月前の1941年に描かれました。

当時、小磯は類まれな描写力を国家によって評価され、
戦争を鼓舞する従軍画家としての仕事もしなければならない状態でした。
おそらく、画家として、キリスト教徒として、人間として、
戦争画を描くことは精神的に大変辛い仕事であったと思います。

そのような中、この「斉唱」は描かれたのです。

この作品は、小磯らしい、あでやかな色彩がありません。
黒を主体として、非常に薄塗りで、すばやいタッチで描かれています。


そのような中で描かれたこの作品からは「清らな歌声」が聞こえてくるのです。
貴方も兵庫県立美術館でこの作品の前にたつと必ずその歌声が聞こえてくるはずです。


9人の少女はどんな歌を歌っているのでしょうか?

賛美歌ですかそれとも、
シューベルトのセレナーデですか。

この清らかな歌声は、小磯の心を癒したように、私たちの心も癒します。

小磯はこの作品にどんな想いをこめたのでしょうか。
私は「希望への祈り」を感じました。
希望は単なる未来ではありません。
その人の決意が希望なのです。

そこには小磯の強い意志を感じます。

平和を祈り、未来へ希望をもつ―それが斉唱なのです。

さて、9人の少女は、いろいろな方向を向いて、歌っています。

けっしてひとつの方向を見ているのではないのです。

私はここで、ふと、金子ミスズの『わたしと小鳥とすずと』を思い出しました。


「わたしが両手をひろげても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
じべた地面をはやく走れない。

わたしがからだをゆすっても、
きれいな音はでないけど、
あの鳴るすずはわたしのようにたくさんなうたは知らないよ。

すずと、小鳥と、それからわたし、みんなちがって、みんないい。」


今、私たちが失った大切なもの清らかな心と希望この作品に出会う度、
私は小磯からこの2つの宝物をいつももらいます。

合掌 山さん

兵庫県立美術館の楽しみ方




今週は神戸にある兵庫県立美術館を紹介します。

この美術館で、私の美術館に対する見方がまったく変わりました。
絵を見る楽しさがあることは当然ですが、その他多くの感動と新しい出会いが用意されています。

私にとってはディズニーランドで1日過ごすことと同じように、
兵庫県立美術館では1日たっぷりと素敵で贅沢な時を過ごすことができます。


今回はその楽しみ方を7つ紹介します。

●楽しみ1-建物を含む空間を味わう 

建築家安藤忠雄によつて設計されたこの美術館は、内部は巨大な迷路となっています。

しかも、前景は神戸の海、後景は六甲山となっています。
その風景は魅力満点です。 

この景観も含んだすべてが兵庫県立美術館です。

ここでは美術館内部、及び外部を含む風景そのものが芸術作品なのです。

体力に自信がある人は、くまなく館内外を回って見ましょう。
迷い人になることもよし、
散歩するのもよし、 

そこで感じる新鮮な感覚を満喫しましょう。 
勿論、費用はかかりません。 

●楽しみ2-小磯良平と金山平三を知る

神戸の画家であった小磯良平と金山平三の作品にいつでも会うことができます。 
記念室には小磯の代表作「斉唱」をはじめとして、 二人のすばらしい作品が展示されています。

特に、「斉唱」の前で、作品と一緒に歌いませんか。
作品から湧き出てきている「清らかな歌」であなたの心はきっと癒されることでしょう。

常設ですから、ゆっくりと二人の絵を味わいつくすことができます。

さらに、約7000点の美術品が収蔵されており、定期的にそのコレクション展が開催されています。


●楽しみ3-手で見る造形 

7月7日~11月18日まで、山村幸則の「手デカラ。目デカラ、心のチカラ」が開催されています。
私たちは視覚で作品を見るということが鑑賞の暗黙の前提となっていますが、 

今回の山村の作品は「触覚で感じる」という工夫がされています。 

案内の方に付き添われて、目隠しをした状態で、
ひたすら手を使い作品に触れていきます。

いったいこれはなんだろうか? 
そのような疑問を持ちながら、 

触れていくうちに脳の中では、
色々な想像力が活性化し、 
芸術作品に対するフレームが新しく脳内に一つ追加されます。


象だろうか、いや恐竜だろう?
答えは皆さんが直接体験され、手で、脳で味わってください。 



●楽しみ4-美術館の調べ

月に二回程度、美術館のエントランスホールでコンサートが開催されています。
7月7日は西宮出身の黒瀬奈々子のヴァイオリン・リサイタルでした。
ラヴェルの「ツィガーヌ」をはじめとして、すばらしい音色の演奏会でした。
目の前で演奏がなされ、しかも無料で鑑賞できるとは、すばらしいひと時でした。


視覚で作品を鑑賞し、 
触覚で作品を感じ、 
聴覚で音楽を聴く 

ここには本物の贅沢な時間があります。 
次回にコンサート予定は、
 7月21日(土曜)古屋晋一のピアノコンサート 
 8月04日(土曜)減額三重奏コンサート  



●楽しみ5-海辺の喫茶店

疲れてきたら、海が見える喫茶店、1階の「ffフォルテシモ」でコーヒーを飲みませんか。
海が見える席が約30以上席用意されています。


その一つに座りながら
休むのもよし、
ボ~と何もしないのもよし、
読書に耽るのもよし、よし。


ちょっと休息タイムをとりましょう。 


●楽しみ6-美術情報センターで出会う

ここには、学びの場が用意されています。
蔵書3万冊、映像ソフト400本、PC10台があり、 


センターで気に入った芸術家の画集や本、DVDを 
又、偶然に身を任せて、手当たり次第に 自由に見ることができます。 

今回私は、DVD美の巨人の中から「小磯良平」と「佐藤哲三」を視聴しました。 

作品だけを自分の感性で観ることも大切ですが、 
その人に関する知識を知ることも、さらに作品の理解を深めるという点で重要なことです。  

特に「佐藤哲三」に関しては、これまでまったく知識がありませんでした。 
このDVDにより、哲三の作品とその生き方を知ることができ、 

特別展で「帰路」という作品に出会えたことは、 
美しい絵だけが好きであった私から、 

暗い中にも力強さがあり、人生の重みを深く背負った作品にも興味がわいてきました。 
自分の思考の枠組みを広げたり、
新しい芸術家に偶然に出会うことができる出会いの場 ーそれが美術情報センターです。

●楽しみ7-本物に出会うことで感動するー特別展
人生の至福の1つは「感動」です。 
人生の中で感動の回数が多いほど、
その人生は心が豊かになるのではないでしょうか。 

その感動をプレゼントしてもらう場が本物の作品との出会い=特別展です。
今回、「見果てぬ夢ー日本近代画家の絶筆」(~7月8日)が開催されていました。

日本の近代画家107名の、絶筆といわれている作品が展示されていました。  
最後の力を振り絞り描いた作品、突然の死で最後の作品となってもの。 

それぞれの人のありようが、感じられる作品でした。  
実年齢と想像力はまったく関係がないことを
今井俊満、里美勝蔵、宮本三郎の各作品を通じて感じました。 
たとえ病のハンディキャップあっても、 
高年齢であっても 
表現力がうまくなくなっても 
創造力性は更に磨かれ、 

作品から出てくる魂の表現は見事なものです。

次回は「川村記念美術館ー巨匠と出会う名画展」(7月28日~10月8日)が開催されます。
レンブラントや尾形光琳の作品に出会うことをワクワクしながら楽しみにしています。 


交通アクセス
 
 ・阪神岩屋駅 徒歩8分
 ・JR灘駅  徒歩11分
 ・三宮ターミナル バス15分(200円)本数少なし注意 以上 7つの楽しみ方を紹介しました。


 合掌 山さん