
第1章、2章は千住博の「絵を読み解く」楽しさを多くの作品を使って説明しています。1章は、ゴッホやモネの古典的名画を使って、2章は難解な現代アートを使って説明しています。実に丁寧で、千住の人柄が伝わってくるわかりやすい文章です。
第3章、4章は野地秩嘉が実に興味深く現代アート見聞録を書いています。千住のまじめな内容と対照的に面白く書かれています。まるでアートの「野次喜多道中記」です。読んだ後、アートの読み方がわかると同時に、「爽快な気分になる」ことを約束します。山さんお勧めの1冊です。
では章をおって要約・説明していきます。
第1章 メトロポリタン美術館-絵を読む鍵(千住博作)
・いい美術館は壁の色と照明が違う
現在東京の国立博物館で「国宝 薬師寺展」が開催されているます。その展示プロデュサー(照明・レイアウト等)の「木下史青」がTV番組情熱大陸で、展示作品(日光・月光菩薩)に照明で命を吹きかけている仕事を見ました。たかが照明ですが、されど照明です。光の当て方だけでからりと作品の印象が異なることを実感しました。美術館にとっての命のひとつは「照明」にあります。千住はこの本の最初で、美術館の照明と壁の色で勝負つくと指摘しています。まずは、美術館に入って、壁の色と照明を確認してみましょう。きっと新しい美術館の楽しみ方ができるようになりますよ。
・描く姿勢-なぜゴッホの絵具は鮮やかなのか
丁寧に画面の一つ一つを描いているゴッホの絵は、神様との対話であったと千住は述べています。ですから、貧乏であってもその絵の具は最高級のものを使っていたのだと。また、絵は単に眺めるものではなく、作者自身を物語っているので、画面を「読む」ことが大切と指摘しています。確かに、ひろしま美術館で見たゴッホの「ドービニーの庭」は、木の枝、花びら一つ一つが輝いており、実に丁寧に描かれていました。その秘密は、ゴッホが神と対話していたんだということを考えると納得することができるようになりました。作品を「見る」から「読む」、美術館での楽しみがまたひとつ増えますね。日本の仏師が仏様を彫るときは、1刀彫るごとに、祈りをするそうですが、ゴッホの絵もそれに通じるものがあるのですね。
・五感で見る-モネの眼のすごさ
モネの目はどこを見ていたかというと、眼がだんだん見えなくなる中で、単に対象の色や形だけを見るのではなく、五感(形、色、温度、気配、匂い、手触り等)すべてを感じ、観ることにありました。そしてモネはそれを表現していったのです。今後は、私はモネの「睡蓮」を見るときは、形や色はもちろん、そのときの温度、気配、匂い、風、等を感じるかどうかためしてみたいと思います。
・答えは作品の中にある
「絵は手がかりを見つけて読み解く美しいクイズのようなものであり、そのひとつとして作者を思い浮かべる方法(どういう状態でキャンバスと向かい合ったかを思う)がある」 と述べています。絵を前にして「あなたはいったい何をやろうとしたのですか。」という心の対話をすることを勧めています。それを具体的に、ボッティチェリの「ビーナスの誕生」、ピカソの「アヴィニオンの娘たち」との出会いを通じて、見えなかったものが見えるようになった感動の実体験を述べています。
・初めて出会う絵をどのように読み解くか
画家になったつもりで見るルネサンス期のフレスコ画を例にとり、どのように読み解くか説明しています。まず、画家の立場に立ち、描くと時の画家の気持ちを想像する、たとえば、「自分が作者なら、まずどこから絵が始めるか」等を想像することを、千住は提案しています。 次に、「人物画は画家が一番手抜きをしやすい「耳」を見ましょう。その画家の実力が現れる」と述べています。
この章の最後に、美術館には何度も通いましょう。何度も見ることで、毎回違うものを感じさせるのが名作であると指摘しています。そうすることで、美術館はきっと楽しいものになることでしょう。
2章から先は、「アートを楽しむ山さんの美術散歩」をお読みください。
合掌 山さん
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