2007年9月29日土曜日

神戸市立小磯記念美術館 美術館コンサートを楽しむ

今回は、神戸市立小磯記念美術館で9月29日開催された「ロビーコンサート」を紹介します。

小磯記念美術館内のショップ横のロビースペースで、神戸室内合奏団の4名によって演奏会が開かれました。

観客は150名程度の小さな演奏会ですが、演奏者の目に前で音楽を聞くことができ、迫力のある音を楽しむことができます。

曲目は、
1)サウンド・オブ・ミュージックから8曲メロディ
  私が古きこと数十年前の中学2年生の時にこの映画が日本で上映され、大変なブームになりました。

今年、NHKでこの映画のモデルとなったドラップ一家の「マリアが語るフォン・トラップ一家物語」 がありました。当時一番小さかった次女のマリアがアメリカへ無一文で移住し、家族で演奏会をおこない、最後はバーモント州のストウの山の中で自分たちでコテージ(トラップ・ファミリー・ロッジ)を建てる話でした。どんなに苦しくても前向きに生きてきたマリア(現在92歳)の明るい姿をみると、私も本当励まされました。

そのような思い出に浸りながら、「ドレミの歌、エーデルワイス、マリア、すべての山に上れ 等」を心の中で歌いながら、弦楽4重奏を聞くことができました。

2)秋の歌つむぎ~コノハムシ風~
  京都市立芸術大学の岡田加津子が秋の日本の童謡(赤とんぼを~夕焼けこやけ)12曲をうまくアレンジした曲です。小さいときにいつも歌っていた童謡を聞くと心から懐かしさに包まれます。

3)ベートヴェン 弦楽4重奏 ハ長調「ラズモフスキー第3番」
ロシアのオーストリー大使であり、音楽家のパトロンであったラズモフスキーにささげられた曲です。

全体で約1時間の演奏会でしたが、神戸室内合奏団の4名の息もぴったり合っており、元気のある見事な演奏でした。

コンサートを聞くための費用はかかりませんが、席は自由席となっていますので、30分前に席に着くと好きな場所で演奏を聞くことができます。

次回のコンサート予定は以下のとおりです。

2007年12月22日(土曜)「クリスマス・コンサート」14時開演
 曲目
 ・ F.J.ハイドン 弦楽4重奏曲 ト長調 OP.77-1
 ・ クリスマス曲集 
   J.ブラームス 弦楽4重奏曲 第一番 ハ単調 OP.51-1
コンサートは無料ですが、美術作品を鑑賞するための入館料金が必要です。

アクセス JR住吉(阪神魚崎)~六甲アイランド北口(六甲ライナー) 徒歩2分

合掌 山さん

2007年9月24日月曜日

神戸市立小磯記念美術館 藤島武二と小磯良平展 1枚の絵

神戸市立小磯記念美術館で現在、15周年記念記念特別展 ー洋画アカデミズムをになった師弟-藤島武二(1867年~1943年)と小磯良平(1903年~1988年)展(9月15日~11月18日)が開催されています。

小磯が芸大時代に師弟関係であった藤島との二人展で約130点が展示されています。

藤島の作品は、晩年の「日の出」をテーマとした風景画が良かったですね。大胆な表現と日本の景観との絶妙な調和はすばらしいものです。

しかしながら、今回の1枚の絵は、小磯の「練習場の踊り子達(1938年)」を選びました。

大きなキャンパス(191cm×180cm)に油彩で複数の人々(群像)が描かれています。

三角に配置された人物たち、
確かな表現力、
「白」と「黒」の対比が実に美しいですね。

まるでドガの踊り子を見ているようです。

戦前に制作されたのですが、まったく古さを感じません。

この作品は残念ながら現在、東京国立近代美術館所蔵となっています。神戸で見ることができるのはあと2ヶ月です。

合掌 山さん

神戸市立小磯記念美術館の楽しみ方

今日は、神戸市の六甲アイランドにある「神戸市立小磯記念美術館」の楽しみ方を紹介します。

この美術館は小磯良平の遺族から神戸市にアトリエを含む遺作2094点の寄贈により、1992年に開館されました。

建物は長方形の箱のように外側を取り囲むように建てられ、その中庭に神戸にあった小磯のアトリエがそのまま復元されています。

兵庫県立美術館の小磯記念部屋とこの美術館の展示をあわせると、神戸の画家小磯良平を十分に楽しめることができます。

では早速この美術館の楽しみを紹介します。

その1 水彩画を楽しむ

小磯の作品は油絵が有名ですし、それを鑑賞できることが楽しみではありますが、水彩画があることをこの美術館で知ることができました。

1956年から12年間、武田薬品工業の「武田薬報」の表紙絵として「薬用植物画」が制作されています。

正確な描写力と気品のある作品は小磯のまた違った才能を感じさせます。

左の絵は「かりん」を描いたものです。
一見、忠実に写実をしていますが、
現実ではありえない部分もあります。

どこが異なるか探してみるのも楽しいものですね。


その2 アトリエを楽しむ


この美術館の中庭にあるアトリエは、生前、小磯が制作をしていた神戸市東灘区のアトリエをそのまま、移築復元しています。

移築にさいしては、床の板すべて番号がつけられ、まったく同じ位置に移動され、まるで当時にタイムトリップしたように感じます。

中に入ると、アトリエをまじかに見ることができます。

朝のやわらかい太陽の光を取り入れるために作られた大窓、絵の具が重なって盛り上がっているイーゼル、好きな楽器のリュート、たくさんの美術関連の本、コーヒーミルなど 当時のままです。

このアトリエのどこにモデルがいて、またどこにある小道具が使われたか、想像しながら、美術館での作品鑑賞をすることも楽しみの一つです。

今回は、アトリエの説明を美術館の森上さんが説明してくださいました。ありがとうございます。
おかげさまで、小磯の制作状況がイメージできて楽しい時間を過ごすことができました。



その3 ハイビジョンで小磯を知る

美術館には「ハイビジョン・ギャラリー」室があります。
約45席の小さな映画館です。

そこでは、小磯の人がらや交友関係、芸術作品等がハイビジョンで紹介され、小磯を多角的に学ぶことができます。

現在の上映内容は左の写真のとおりです。

作品の鑑賞をしてからハイビジョンを見ることもよし、
ハイビジョンを見てから、作品を鑑賞することもよし、



小磯に理解がさらに深くなり、約2時間の楽しい時間を過ごせます。
ただし、中は暗く、冷房がきいていますので、そのままいい気持になって眠らないように注意しましょう!

その4 喫茶室 パサージュで休憩する

3つの展示室、アトリエ、ハイビジョン・ギャラリーを回ると疲れがどっときます。

美術館内に風月堂が経営する喫茶室パサージュありますので、お茶を飲んで休憩をしましょう。

店内は、二人テーブル3、4人テーブル3、14人テーブル1でこじんまりとした空間ですが、上品な雰囲気を持っています。

私はアイスティー(472円)をオーダーしましたが、風月堂ですからおなじみの「ゴーフル」がついてきます。

右手に美術関連の本がありましたので、「現代日本素描全集 9」をお茶を飲みながら見ました。この本は現在中古本でも見つけることができない貴重な本です。

その中にあるフィレンチェの「花の聖母教会」の素描は絶品です。

その5 ロビーコンサートや美術講座を楽しむ

 ●今月の9月29日(土)午後2時から神戸室内合奏団によコンサートが開催されます。
 コンサート料金は無料ですが、美術館の入館料金は800円が必要です
 (今回は開館15周年記念特別展ー藤島武二と小磯良平展の開催のために多少高めです)。

 まじかで、合奏団の音に出会えることは素敵なことですね。

 ●美術講座の開催 
 毎月1回、美術館の2Fで美術講座が開催されています。
 -10月27日(土) 藤島武二の芸術
 -11月17日(土) 富本憲吉 人と作品
 -12月15日(土) 雪舟作品の謎
 - 1月19日(土) 黒田清輝の作品と仕事
 - 2月16日(土) こんなにおもしろい江戸時代の絵画
 - 3月22日(土) アサヒビール大山崎山荘美術館の魅力

 2000円(6回)が必要です。また申込は10月6日まで、往復はがきで申込をします。

その6 六甲アイランドの野外彫刻を楽しむ
美術館を出たら、六甲アイランドを散歩しませんか。

超高層のビルに囲まれた場所に、すばらしい野外彫刻が34もあります。

六甲ライナーの下をまっすぐ海に向かってマリンパークまで歩くだけでも、船越保武の「渚」等7つのビーナスに出会うことができます。

この山さんの美術散歩でもこれらの彫像を取り上げる予定です。








● 美術館へのアクセス
   JR住吉駅(または阪神魚崎駅から「六甲ライナー」乗り換え、アイランド北口下車、
   徒歩2分

合掌 山さん

2007年9月22日土曜日

神戸 パブリック・スペース・アート 花と彫刻の道 散歩 II

今回は、神戸市庁舎周辺のビーナスたち出会うために前回に引き続き散歩します。

最初は、三宮の花時計前の交差点にある 一色邦彦(1935年~)の「潮風(ブロンズ 1986年設置」です。

細長い手足とあどけない顔もった「潮風」はさわやかな美しさですね。

ですが、体の頭、胴、足、手の方向がそれぞれ異なります。
なんだか妙に体に力が入ります。見ていると、自然首を曲げて見たくなる作品です。 微妙な姿勢でバランスをとりながら、三宮の交差点に潮風を運んできています。

「潮風」の先に、まもなく次のビーナスに出会うことができます。

私が大好きな日本の代表的な彫刻家 佐藤忠良(1912年~ )の「帽子・裸婦(ブロンズ1981年 設置)です。

神戸にぴったりの彫像ですね。

モダンで凛とした神戸の女性を思い浮かべる素敵なビーナスです。

物憂げに下を見ていますが、何を思っているのでしょうか。神戸の街の素敵な思い出に浸っているのかもしれません。


次に、出会うのが朝倉響子(1925年~ )の「WOMAN(ブロンズ 1981年 設置)です。

なにともいいようがない、怖さを感じます。
その生々しさに、生命感を感じます。

女性の彫刻家ということで、男性の作品とは異なる雰囲気がありますね。

だらりと前にのびた両腕。
傾いた体と頭。
エキゾチックな表情。
荒々しい質感。

思わず「ドキッ!」とさせられるビーナスです。




今度は、市庁舎前の「東遊園地」にあるビーナスに出会いましょう。

最初に出会うのが、船越保武(ふなこしやすたけ 1912年~2002年) シオン(ブロンズ 1981年設置)です。

最初に船越の作品に出会ったのは彼の故郷盛岡の岩手県立美術館での「船越保武のコレクション」でした。
その作品からにじみ出る「聖なるオーラ」の衝撃は今でも忘れることができません。

この「シオン(神に約束された地)」にも同じオーラがあります。表情は、船越がイタリアのアッシジで雨中に出会ったといわれる「幻の聖女クララ」の顔そのものです。

神戸にこのような精神性の高い船越の作品が設置されていることは、神戸の誇りです。

次は、久保浩(くぼ こう 1932年~ )の「海の栄え(ブロンズ 1981年設置」です。

エネルギッシュで、右足を前にして、伸びやかに両手を左右に大きく広げた動きは、まさしく海の賛歌を体全体で表現しています。

見ていて、こちらもその若々しい力をもらえるようなすがすがしい気持ちになりますね。

「花と彫刻の道」の一番海側においてあります。

ここまで散歩をすると多少疲れがでてきます。
この「海の栄え」を見て、元気をだしましょう。





最後のビーナスは木内克(1892年~1977年)の「エーゲ海に捧ぐ(ブロンズ 1971年 設置」です。

ウィッツィ美術館にあるボッティチェリの「ビーナスの誕生」を思い出させる作品ですね。

高さが230cmあり、まさしく存在感のある神戸のビーナスそのものです。

同様なものが姫路市立美術館他にも展示されいます。






いままで「花と彫刻の道」にある多くの個性的なビーナスに会ってきましたが、この熱い中ではぐ~と疲れがでてきます。

神戸市庁舎の24Fに喫茶店とレストランがありますので、行ってみましょう。

今回は喫茶店「カフェ コンフォート」で休憩をとりました。
写真にあるように24Fからの神戸の景観はいいですよ。

アイス紅茶(380円)を飲みながらくつろいでみませんか。

なお、この庁舎の1F階には、ロダンの「青銅時代」、マイヨールの「着衣のフローラ」、佐藤忠良、船越保武の作品が展示されています。

神戸の三宮は今まで散歩してきたように、すばらしいコレクションが野外に展示されています。

ぜひ、一度ゆっくり散歩して、美を味わい、感動し、驚かされ、癒されませんか。
そういう時が、一番贅沢ではないでしょうか。

合掌 山さん

2007年9月3日月曜日

神戸 パブリック・スペース・アート 花と彫刻の道 散歩 I

今回は、神戸 三宮のフラワーロードに沿って「花と彫刻の道(この道には、終点の東遊園地も含めると37の彫像) 」を、散歩します。
きっと多くの個性豊かな神戸のビーナスの出会うことができることでしょう。

地下鉄に乗るより、ちょっと散歩をしながら多くの「ビーナス」の出会う そのような心を豊かにする時を持ちたいものです。

まず、神戸で新幹線を降りて三宮まで歩く途中で、そのご褒美として最初に出会うことができる彫像が岩野勇三作(1931~1987)「なほ」(ブロンズ 1987年設置)です。

「なお」の頭は右側を向き、体は正面、両手でバランスをとっている姿は確かな量感と構成の美しさを感じます。

高さは128cmにすぎませんが、大きさと存在感を感じる彫像です。


次に、「なお」から約100m先(加納町3丁目交差点)に、大桐國光作 「少女」(ブロンズ 1988年設置)に出会うことができます。

110cmの小さな彫像です。
本当にかわいい 可憐な少女です。

つい、つい私は「少女」の頭をなでてしまいました。

彫像のいいところは触ることができることあります。目で見ることも大切ですが、触って感じることも、芸術の大切な鑑賞方法ではないでしょうか。



さて、次に紹介するのは、神戸の彫刻家 津野充聡作(1952年~)「WIND」(ブロンズ 1986年設置)です。

大きな帽子をかぶり、堂々としたモダンなビーナスですね。
このビーナスを見ると、神戸を感じます。

左手は風の方向を指し示していつのでしょうか。
それとも未来を指し示しているのでしょうか。

思わず、私も指の先を見てしまいました。

残念なことに、そこはゴミ収集の場所となっており、ちょっぴり残念でした。芸術作品と隣あわせのゴミの山ー私たちの現在の姿を象徴しているのでしょうか?



次は、掛井五郎(1930年~ )作「長い午後」(ブロンズ1982年設置)です。

このビーナスは、珍しく座っています。
そうして、おもむろに上を見上げています。

あどけない瞳に何をみているのでしょうか?

純粋に一点を見つめ続けているその姿は美しいものがあります。

そんな時間が私たちの人生にも必要だと思う気持にさせる彫像です。
「あなたもそんなに人生を急がないで、一度座ってゆっくりと空をみませんか?」 と掛井は私たちに問いを発しています。



次は、三宮の交差点にある彫像を紹介します。

神戸をこよなく愛したアモーレの彫刻家 新谷琇紀(しんたにゆうき 1937年~2006年)の金色に輝く「ALBA(アルバ)」(ブロンズ 1985年設置)です。

三宮の中心にあるこのALBE(夜明け、はじまり)は確かに不自然な姿勢ではありますが、私は生命の鼓動を感じます。

三宮の中心地にビーナスが存在し、絶えずエネルギーを発し続けているように思えます。
一度、このビーナスに会って、そのエネルギーを感じませんか。

なお、このALBAは自由に回転させることができます。直接彫像に触れて回転させて見ましょう。


次は、三宮の商店街の入り口にある桜井祐一作(1914年~1981年)の「レダ」(ブロンズ1982年 設置)です。

桜井は病との闘いの中から凄い作品を生み出した彫刻家です。

その代表作「レダ」が三宮にあります。

レダはギリシャ神話の人物です。
スパルタ王ティンダリオスの妻レダを誘惑するために白鳥に変身したゼウスを、鷹から守るために自分の腕に隠しました。その後、密通により、レダはゼウスの子-トロイのヘレナを生みます。
ゼウスはヘレナをわが子として育て、その誕生を記して白鳥座を作ります。

この神話のレダの複雑な心の動きを端的に表現したのがこのレダ像です。

なんて、苦しくて悲しい表情なのでしょうか。
桜井は自分の運命をそのままこの彫像に託したのかも知れません。

私は、病と壮絶な戦いの中で、凄い彫像を創造したいった桜井の生き方をこのレダをとうして感じます。



今回紹介する最後の作品は、三宮の地下鉄海岸線入り口にある中村晋也 (1926年~ )MISERERE(ミゼレーレ 哀れみたまえ) 1995年設置です。

私は、中村晋也このとを「祈り」の人とよんでいます。

その彫像から沸き上がる精神的エネルギーは、ひたむきに生きぬく祈りの姿です。

この彫像は1995年1月17日阪神・淡路大地震の鎮魂を祈念して設置されました。

私は通勤途中で毎朝、この彫像を見ていますが、イエス・キリスト像を見ているような気がしてなりません。
思わず手を合わせたくなるような作品です。

人間の内面に訴える力をもった彫像が中村の彫像のすばらしさです。


ぜひ、皆さんも神戸 花と彫刻の道を散歩して、豊かな時を過ごしませんか。
次回もこの続きを、花と彫刻の道 散歩IIで書かせてもらいます。

合掌 山さん

2007年9月1日土曜日

1冊の本 森村泰昌著 「美しい」ってなんだろう?

今回は美術家の森村泰昌の『美しい」ってなんだろう? 美術のすすめ』という本を散歩したいと思います。

この本を書かれた目的は、できるだけたくさんの人が「美術っておもしろいなあ」と思い、「美術館にいっぺん行ってみようと強く感じてほしい」という著者の思いから書かれています。

本の構成は、学校の授業のように1時間目~10時間目の10章に構成されています。まるで、森村美術教室で美術の講義を受けている感じです。
内容は、本当にわかりやすし、美を冒険していく上での必読書です。
さらに、所々に若い学生からの質問に真摯に回答されているQ&Aもあり、そこには人生の至玉の言霊がちりばめてあります。


1時間目の授業は、「私は美術家です」というテーマで、「カワイイやカッコイイ」をはじめとして、途方もない大きさをもっている美しさを探しに行くための冒険の場所、それが美術館ということがかかれています。

2時間目は「モリムラ美術館」への招待です。上図にある「肖像・ゴッホ 1985年 カラー写真」を作る中で自分の道=第4の道(見る・作る・知る→なる)を見つけられたことが書いてあります。

3時間目は「ふしぎ美術館」です。美術鑑賞では、マニュアルに惑わされることなく、「自分の頭の中をまっしろ」にしてから美術作品と出会い、その不思議を味わうことを勧められています。
具体的には、ドラクロアの「民衆を導く自由の女神」を例に出して、戦争の中で「はだか」の人が描かれている不思議を「絵のまえでは腕組みをせず、ふしぎだ?→笑える?→でも笑いをとっているわけではなさそうだ?だったら何故そうなっているんだろう」と空想する中で、絵の面白さを感じることー気持ちのドキドキ感ーを提案されています。

私は、現代美術の出会いでー例えばマルセル・デュアシャンは時として「笑ちゃう」ことはあります。しかし、それから先へはすすむことができなくなることがよくあります。その作家や現代美術に関しての知識がある程度あったら、何故にたいする空想がさらに広がるように思っています。

4時間目は「ものまね美術館」です。無から有は生まれません。すばらしいという感動の対象をみつけたら、それをまねする。そうして、その世界に何かを付け加えたり、違う角度から眺めてみる。そうして、一歩一歩アレンジを付け加える。すべての始まりはそこから生まれる と指摘されています。
世阿弥の「風姿花伝」に「修(手本を真似る)・破(独自の工夫を付け加える)・離(手本に縛られないで独自なものにする)」と一人前の能役者(真の花)になる成長の段階が書かれていますが、「ものまね美術館」ではそれと同じことを指摘されていると思います。

5時間目は芸術と芸能美術館です。芸術の目的は「深く行きつくこと」、一方、芸能は「広くいきわたらせること」。両者は文化の両輪。

6時間目は「しあわせVSふしあわせ」美術館です。芸術作品を見る視点を、「しあわせとふしあわえ」という視点で見ると「美の世界」がさらに広がります。
具体的に印象派の作品(しあわせの作品ー私は光の作品と呼んでいます)と後期のゴヤ作品のムンクふしあわせの作品ー私は影の作品)とを比較し、両者にはそれぞれの美があると指摘されています。さらに、ゴッホの作品の中にある外面の影と内面の光の両面をもっている作品に焦点をあてて、美のいろいろなバリエーションを知ることで、美の世界を深堀することを提案されています。
美しさは光の中にも見出すことができますが、影の中にも私たちは美しさを見出すことができます。美とはなんと広い世界なのでしょうか。

7時間目は「ほねぐみ美術館」です。この章で、抽象画のたいする見方が大きくなりました。「なるほど!このように見ると良くわかる」と私も活眼しました。
モンドリアンの「青と黄色のコンポジション」と写真家ブレッソンの「トリエステ」を例に出して、表側(きれいでわかる世界)と内側(すぐには見えないものー骨組み(本質)の世界)の2つの世界を表現している美の世界があることをここでは説明しています。

これから芸術作品を見るときは、「心のレントゲン」で裏にある骨組みを見てみませんか!このことで抽象画の美に対する冒険はさらに広がることと思います。

8時間目は「大きさ美術館」です。現代社会の特徴である「大きい、多い、おしゃべり(主張する)」ことが重要だという価値観から、フェルメールの作品のように「小さく、少ない、おとなしい」ということも同じく価値があると述べられています。このような見方をしていくと、美しいということはさらに大きく広がります。

9時間目「地球美術史美術館」です。この章では、メキシコの女流画家「フリーダ・カーロ」の紹介があり、私は感動してしまいました。
彼女の映画が日本で公開(2003年)されていたので、ぼんやりとは知っていたのですが、すごい絵を見てしまいました。
フリーダは6歳で小児麻痺になり、18歳でおなかに鉄の棒が刺さるという交通事故にあい、それでも絵を描き続け、47歳でこの世を去った人です。
その彼女の「折れた支柱」という作品は、全身に釘がささり、体の中心を金属でささえ、それでも、凛として美しくたっているフリーダーの自画像です。人間の美しい凄さを垣間見る作品です。
世界は広いことを実感させられた章です。

最後の10時間目は「いつでもどこでも美術館」です。美術館は、いろいろな種類の「美」が実る森だと考え、どれだけたくさんの種類の「美」という感動のどんぐりを拾って持ち帰るころができるか、そんな気持ちをもって美術館に足を運びましょう と提案。

そうして、
「きれいでなくても美しい、ちっぱけでも無限の世界がある、みぢかなところに、すばらしい感動がある」
美はどこでも見つけることができる と最後に喝破されています。


この本の中に素敵な言霊がありましたので紹介します。

心の美人
「なにかを美しいと感動できる心をもった人は美しいと。
美しい心を持った人が美しいんじゃなくて
美しいと思う心を持った人が美しいんだ。」


合掌 山さん