2007年8月22日水曜日

神戸市立博物館 1枚の絵

今回の1枚の絵は、神戸市立博物館 特別展での葛飾北斎の富嶽三十六景の中の「神奈川沖浪裏(1829年頃)」を紹介します。(クリックすると大きく表示)


おなじみの絵ですね。


悪魔の手のような大浪(波)が2艘の船を襲っています。その波間を滑っていく船。

現在人の私には、大浪をサーフィンをしているように小船が見えるのですが・・・・。

前面に動である大浪と船を配置し、
大浪が落ちる場所に静である富士山を配置しています。

しかも、目の付け所が、題名にあるように「浪裏」にあるのです。
北斎のイマジネーションは実に見事です。

波の色は、波頭の白と3色の青。
薄いブルーの藍、2色の濃いブルーの「プルシアンブルー」。

見事な構図と色使いですね。
さすがに画狂人北斎(70歳頃の作品)です。

この絵は9月2日まで、神戸市立博物館の「特別展ー西洋の青 プルシアンブルーをめぐって」で見ることができます。入場料金は600円です。

合掌 山さん

2007年8月21日火曜日

神戸市立博物館の楽しみ方

今回は神戸市の京町筋にある「神戸市立博物館」の楽しみ方を紹介します。 三宮駅から京町筋を海へ向かって10分ほど歩くと、ギリシャ建築風の建物が右側に見えてきます。

入り口には、右の写真のように両手を広げて「ロダンのジャン・ド・フィエンヌ」が迎えてくれます。

この博物館は神戸市立南蛮美術館と考古館とが統合されて、1982年に開館しました。

博物館と名前がつけられているように、常設展では古代から現代まで、神戸市から出土された国宝絵画銅鐸をはじめとして多くの歴史を伝える展示物があります。歴史を学ぶにも最適なところです。

震災後、復興に1年かかりましたが、それ以降は古今東西の名画が神戸で見ることができるようになりました。具体的には、2004年は「フェルメールの画家のアトリエ」、昨年は「ダビットのナポレオン」が、そうして今年は「マネのモリゾ」に出会うことができました。

最近の私にとっては、博物館という名前になっていますが、「神戸の美術館」というイメージですね。

では、この博物館での楽しみ方を紹介します。

その1 南蛮美術を見る
南蛮美術の収集・研究家であった池永孟(いけながはじめ)のコレクションー狩野内膳の南蛮屏風等4500点が神戸市へ寄贈され、現在この博物館に展示されています。

昔、教科書にのっていたあの絵、「聖フランシスコ・ザビエル像」がこの博物館にはあります。
懐かしい気持ちになりました。

そうかここにこの絵はあったんだ!
絵を見るとなにやら下に文字があいてあります。

「さんふらぬしすこさべりうすさからめんと」と万葉仮名で書いてあるとのことですが、よくわかりません。
それよりも「十字架のキリスト」を支え、
神への燃える愛の象徴である「赤の心臓」。
そうして、
ザビエルの口からでている言霊「満ちたれり、主よ 満ちたれり」が私には強く印象に残りました。


その2 特別展を観るー西洋の青 プルシアン・ブルー紺青をめぐって

絵の具の色「青」にフォーカスを当て、日本人の画家が使っていた「露草や藍の青ー日本の青」から「プルシアンブルー 西洋の紺青(1704年 ベルリンで合成顔料として発見)」が使われるようになった変遷を時系列に見ることができる展示会です。

このプルシアンブルーが葛飾北斎の「富嶽三十六景」に使用されて以来、日本の青になっていく過程が良くわかります。

浮世絵の平面的な表現に、空の色としてプルシアンブルーでグラデーションをつけ奥行きを表現できるようになったことは画期的なことでした。


富嶽三十六景の「凱風快晴」の空の色はそのグラデーションをはっきりと示しています。

同じ青でも、材料の違いで色々な青があることが良くわかる展示会です。
円山応挙の「富士・美穂の松原図」や葛飾北斎や「富嶽三十六景」をはじめとして、147点が展示されています。


その3 ティーラウンジ エトワールでくつろぐ

2階の左奥に「エトワール」があります。

お奨めは、ティーセット(チョコレートケーキ)です。
砂時計がついていていますので、4分経過したらウエッジウッドのカップにたっぷりとティーを注ぎましょう。

ストレートで飲むのもよし、
ミルクティーにするのもよし、
たっぷりと3杯は楽しむことができます。

ヴィバルディの音楽を聴きながら、ティーとチョコレートケーキいいですね。
私にとってはたいへん贅沢な時を過ごすことができました。

その4 学習室で学ぶ

エトワールの手前にこじんまりとした「 図書館」があります。
神戸や東西交流や南蛮美術に関する本等約5400冊があります。
じっくり本を読むにはいい場所です。



2階の奥に「世界地図のステンドグラス」がありました。




美しい青でしたので、ここに写真で紹介します。

●アクセス
三宮駅(JR・阪急・阪神)ともに海に向かって京町筋を徒歩約10分。

合掌 山さん

2007年8月17日金曜日

芦屋市立美術博物館の楽しみ方

今日は芦屋市伊勢町の文化ゾーンにある「芦屋市立美術博物館」の楽しみ方を紹介します。

この美術館は芦屋市制施行50周年を記念して、1991年に開館しました。

しかしながら、阪神・淡路大震災後の芦屋市の財政難のために、休館ということも検討されましたが、現在はNPO法人 芦屋ミュージアム・マネジメントへの一部業務委託という形で運営されています。

今回はここでの4つの楽しみ方を紹介いたします。


その1 展覧会 「牧野四子吉(まきのよねきち)の世界-自然観察の愉しみ-」

牧野四子吉(1900年~1987年)は「生物生態画」というジャンルをはじめて確立した人です。
牧野は、「ファーブル昆虫記」、「ジャポニカ大日本百科事典」、「教科書」等に挿入画として多くの使われ、その生涯に約3万点の作品を描いたといわれています。
私たちも、小さいころから、牧野が描いた作品とは意識しないで、精密な動植物たちの絵を見て学び、育っていったと思います。

今回の展覧会では、実に見事な作品が1000点が展示されています。
丁寧に丁寧に描かれた作品は、一つ一つには名前がありません。
でも、それを見ていると、牧野四子吉の絵を描く姿勢が良くわかります。
生きとして生きるものへの暖かい心と緻密な観察力に深く心を打たれます。

素敵な詩がありました。
おもいで (作 牧野文子 1941年)
おもいでは花のように美しい
おもいでを花の一つとすれば
そんな花を一つでも多く
花束に集めたい
どんなに貧しくても
どんなに恵まれないでも
そんな花束を
胸に抱ける人生を
私は歩いていきたい

その2 2階のラウンジで本を読む
階段を上がると、そこにはラウンジがあります。
有名な黒のコルビジェソファーとその後ろには、
美術関係の本がおいてあります。
その本を読んだり、
静かに外の景色を見たり
また、自分で自宅から持ってきた本を読む。
深く腰をかけて、静かな環境を味わいませんか。
疲れてきたら、また絵をみて、続きの読書をしょう。

その3 小出樽重(1887年~1931年)のアトリエ(復元)を訪問する
小出は1926年(大正15年)2月に、芦屋の川西町に念願のモダンな西洋風のアトリエを作り、この芦屋を最後の住処とします。
日本人特有の「裸婦の美」をみいだし、小出はそれを苦難の末に作品として仕上げます。
その最初の作品が、妻の重子をモデルとした「裸女結髪(1926年)」です。
日本人のほのかな色気を感じさせるすばらしい作品です。複製画がこのアトリエにもおいてありますので確認してみてください。
アトリエ内には、作品の中に描かれたテーブルや椅子、ソファー、寝台、人形、等が展示され、原稿や書簡も展示され、当時の空気を感じることができます。
無料で、自由に見ることができますが、アトリエの中に入りすぎると「ブザー」が鳴りますので、注意しましょう。

その4 カフェ・ド・ルポ(憩いの場)でくつろぐ

全体の半分が窓ガラスで、そこから美術館や小出のアトリエを見ながらくつろぎましょう。
お奨めは、水出しコーヒー 氷ロック入り(¥480円)です。
アイスコーヒーですが、非常にまろやなか味です。
流石、水出しです。

しかも、氷の玉(ロック)は、そのコーヒーを凍らせたもので、味が薄くならないようにしてあります。この心遣いがうれしいですね。
朝8時30分よりモーニングが用意されています。日曜日は、朝食をここのモーニングでしませんか。美術館は10時開館ですから、十分時間はあります。

●アクセスは阪神芦屋、JR芦屋より、阪急バスで「緑町」下車、徒歩では約15分かかります。
今回訪問したときも、2時間ほどいましたが入場者は私も含めて4名でした。
けっして大きな美術館ではありません。
しかしながら、ピリッとした展示会や
戦後の抽象絵画をリードした吉原良治の具体美術協会の作品があります。
このような小さな美術館ほど、私たちのサポートを必要としています。
あなたも、この美術館で楽しんでみませんか!

合掌 山さん

2007年8月15日水曜日

川村記念美術館所蔵 巨匠と出会う名画展 1枚の絵

今回の1枚の絵は現在兵庫県立美術館で開催されている川村記念美術館所蔵の「巨匠と出会う名画展(7月28日~10月8日)」の中から、安土桃山時代の巨匠長谷川等伯(1539年~1610年)の「烏鷺(うろ)図」を紹介いたします。(クリックすると大きくなります)


川村記念美術館は大日本インキ化学工業(株)が中心となって収集していた美術品を公開する為に、1990年5月に千葉県佐倉市に開館されました。


レンブラントをはじめとして評価が高いコレクションがあることは知っていましたが、関西からは遠いのでなかなか行くことができませんでした。今回、美術館の全面改装ということで神戸で開催されたことは私にとっては非常に幸運な出来事です。


アンディ・ウォーホルの「マリリン・モンロー(1962年~)」やフランク・ステラの「恐れ知らずの愚か者(1985年)」が煌びやかに、「私の絵を見てよ!」と叫んでいる展示室を通り抜けると、「日本美術の流れ」の展示室があります。


最初に出会うのが、この長谷川等伯の「烏鷺図(屏風-六曲一双 紙本墨画 1.5m×3.5m)」です。

約400年間の時の評価にも負けない、また、現代アートにも負けない、凛とした存在感のある大人の作品です。


左には大きな松と1羽のカラス。

右側には4羽のカラスが空に戯れています。


しかし私にはこれがカラスに見えません。

遠近法を使わない空間の中に、運動している「抽象化された純粋な黒い形」にしか見えないのです。

まるで抽象絵画の世界です。

先日京都の相国寺で「伊藤若冲の動植綵絵」を見ましたが、
それはまばゆいばかりの生命の輝き、
さらに、それを超えて生きしもののエロチズムさえ感じる作品の数々でした。

若冲と比較すると等伯は、人間の情感よりも「純粋な美の形」を追求した画家です。
これが400年前の作品であるとは、長谷川等伯のすごさを感じる作品です。

残念ながら、この作品は8月21日までの展示です。

早めにいかれることをお勧めします。

なお、ここでこの美術館を安く利用する方法を紹介します。

それは兵庫県立美術館の「友の会 会員」になることです。
そうすると「展示会」の券が3枚と常設展示1年間無料の特典が2000円で獲得することができます。

最近の観覧料金は千円以上ですので、2回以上いけば元が取れる方法です!

最後に美術館の周りを散歩していたら、ヘンリー・ムーアの「ゴスラーの戦士(1973~4)」のブロンズ像がひっそりとおいてありました。


合掌 山さん

2007年8月6日月曜日

アルフォンス・ミュシャ館 1枚の絵

<スラブ叙事詩>展のポスター 1928年 カラーリトグラフ (絵をクリックすると拡大します)

アールヌーヴォーの主役から降りたムハ(ミュシャ)は、芸術を通じてスラブ民族の団結に貢献するという生きる原点に立ち返り、本当に心の底から描きたいもの-魂の絵 すなわちスラブ民族の油彩による歴史画の制作に取り掛かります。

約18年の年月をかけて、1928年、「スラブ叙事詩―絵で見るスラブの歴史 超大作20作品」が完成します。

これらの20作品は、残念ながら、現在日本にはなく、チェコのモラフスキー・クルムロフ城にあります。

しかしながら、この「アルフォンス・ミュシャ館」には、「スラブ叙事詩」の出発点となった「ハーモニー」とこの展示会のポスターがあります。
特に、「ハーモニー」を見ると、ドイツ劇場で受け取りを拒否されましたが、スラブ民族の調和を願うムハの心が本当によくわかる作品です。

そうして、今回の1枚の絵は「スラブ叙事詩20作品」の展示会のポスターを紹介します。

天使の楽器ハープを奏でているのは、娘の「ヤロスラヴァ」です。

ムハはどのような思いをハープの音に託したのでしょうか?
おそらくそれはスラブ民族の調和と発展の歌なのでしょう。

ヤロスラヴァの後ろには、過去・現在・未来の顔をもつ希望の神となった
青い「スヴャトヴィートSventovit」が力強く、娘の「ヤロスラヴァ」とスラブ民族を見守っています。
右手に酒を満たした牡牛の角を持っていますので、
「スラブ叙事詩」の完成に、祝杯を挙げているのかもしれません。

このポスターはアールヌーヴォー時代の極端にデザインされた形から、
素朴で正確なデッサンに裏づけされたムハの確かな技術がここにはあります。

アールヌーヴォーのミュシャしか知らなかった私にとって、
歴史の大波に流されながらも、
自分の信じる芸術を描き続けた一人の魂にいつでも出会える場所
それが、この館です。


合掌 山さん