2008年9月26日金曜日

コロー 真珠の女

 現在神戸市立博物館で「コロー 追憶の変奏曲(9月13日~12月7日)」という展覧会が開催されていますで、今週早速行ってきました。

 この展覧会を見るまでは、コローというと「風景画家」というイメージがありました。

 今回は風景画とともに、18点の女性の肖像画が展示されいました。 実に魅力的な肖像画がありました。肖像画家としてもコローは魅力あるアーティストであることを実感しました。

 特に私が凄い作品だなあと感じたのは、左図の「真珠の女」と「青い服の婦人」の2作品です。

 どちらも素晴らしい作品ですが、今回は「真珠の女」の焦点をあてて考えてみたいと思います。

 正面をじっと見ている端正な顔の作品は、 見事な作品で他の肖像画よりも光り輝いています。
 
 まず、構図を見てみましょう。もともとこの作品は「コローのモナリザ」といわれています。そこで、レオナルドのモナリザと構図を比較してみました。



 左図に示しているように、両作品ともほとんど同じ構図です。異なるのは右手の角度です。画面と平行に手の位置を配置していますので、安定性がましています。



 このようにほとんど同じということは、コローは自らがモナリザを意識してこの作品を制作したのではないかと思われます。


 コローとダビンチは、お互いに一生独身で、母親を強く意識していたということ、両者ともこの作品を死ぬまで自分の傍においていたという点で共通点があります。
 二人とも母親への強い思いがあったことと私は想像します。

 しかしながら、あまりにその思いが強いと、頭の中での想像力が膨らみ実態とかけ離れたイメージが出来上がります。

  ドイツの哲学者ディルタイは、「頭の中で考えた対象を理解するだけでは本当の理解ではなく、自らの体験を通じて理解できる」と述べています。体験や表現をしないと人間は純粋な思いだけがだんだん広がり、現実のものとはかけ離れたものになってきます。それだけ純粋培養されたイメージだけが膨らむことになります。体験-表現-理解のサイクルをまわして初めてわかるのです。

 二人の作品は理念化された女性像を描いているような気がします。そのために、どうしても人間を感じさせない作品なのです。人間の匂いがしないのです。

 左図はダビンチと同時期に描かれたラファイエロの「ラ・ヴェラータ」ですが、実に人間(女性)を感じさせる作品です。この作品はラファイエロの恋人を描いたといわれていますので、二人の関係がこの作品にはにじみ出ています。人間臭い作品なのです。

コローの作品は、人間臭さにかけますが、なぜか私は惹かれるのです。私も自分の母親を理念化しているのかも知れません。

 なお、この展覧会の招待券を下さった田村さんにお礼申し上げます。

合掌 山さん

 

2008年9月23日火曜日

伊丹市立美術館とみやのまえ文化郷

兵庫県伊丹市の「みやのまえ文化郷」のなかにある「伊丹市立美術館」を今回は訪問しました。

 この伊丹市立美術館は1987年11月に柿衞文庫の建物が増築されて、その文庫との共同利用ということで開館しています。ですから、柿衛文庫と美術館の入口は同じですし、両方を楽しむことができます。 
 
美術館は、オノレ・ドーミエ(1808~1879)・コレクションでは世界有数の美術館です。1,800点の諷刺版画、49点の彫刻、4点の油彩があります。ドーミエの諷刺とユーモアがある作品を見ていると、心がほっとして笑いが自然にこみ上げてきます。 
 
また、柿衛文庫には俳書を中心とする書籍約3500点、軸物や短冊など真蹟類約6500点があり、日本三大俳諧コレクションとなっています。松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶、正岡子規、夏目漱石等の作品があります。 更に、枯山水の庭園、清酒醸造で栄えた江戸期の伊丹の象徴である旧岡田家住宅があり、江戸時代にタイムスリップすることができます。 
 
実にここは文化の香り豊かなところですね。その感覚がにじみ出ています。では、山さんの4つの楽しみ方を紹介します。

1)彫刻作品を楽しむ

 阪急伊丹駅から美術館へ行く途中に、河合隆三の少女と犬の石の作品がさりげなく置いてあります。ぜひ、見てみましょう。本当に品のある愛らしい作品です。 

 館内外には多くの彫刻作品が展示されています。入口正面には、ブルーデルの巨大な「ドーミエ像(頭部)1927年製作」があります。その横には、その昔、頼山陽がその柿のおいしさで感動した柿の木でつくった大久保英治の「つどい(1994年製作)」があります。 

 今回私が一番感動した彫刻作品は、柳原義達の代表作「犬の唄(1950年製作)」です。ポートアイランドにある作品と姿勢が異なりますが、まじかでみると凄い作品です。ロダンの作品を思い浮かべるような表情、右手首を犬のように曲げ、膝をちょっとだけ曲げている姿は人間の感情表現を見事に表現し、内面の生命エネルギーを感じます。 

 更に、堀内正和の「球もまた空にかえってゆく(1967年製作)」、今村輝久の「’90年封じられた時限2(1990年製作)、ブルーデルの「剣をもつ兵士(1898年製作)が展示され、庭にはブルーデルの「牧神と山羊(1908-1909年製作)」、江口 週の「遺された時 蔵の組舟(1992年製作)」があります。 これらの彫刻をまじかでみることだけでも、ドーミエ作品とともに入場料200円は驚きの価格です。安い!

2)ドーミエ作品を楽しむ

19世紀のフランスは資本主義の勃興と政治的な大変化をともない激動の時代でした。その時代、オノレ・ドーミエ(1808~1879)は鋭いまなざしと類まれなデッサン力で、世相や権威者(国王や政治家)などを風刺した絵を作成しました。
 
今回の展示されているのは、19世紀のパリの人びとをテーマとした「パリっ子の表情(8月30日~11月24日)」と「古代史」に関するものです。

 当時のパリ市民の普通の生活を鋭く風刺した作品は、思わず「なるほど、わかる、わかる!これはうまい!」と声を上げたくなる面白い表現がちりばめられています。特に、私はデフォルメされ表情-目、鼻、口に風刺の本質が表現されている思います。現在の私達からみても「あまり変わりばえがしない」人間の本質(精神)をズバリ見せられました。
 
また、それぞれの作品にはすべてドーミエのコメント(解説)が書かれており、面白さを倍増させています。たとえば、左図の場合は、「素晴らしきトロイアの煙吹く城壁の上で、神々の息子メネラオスは、贅なる供物が如き金髪のヘレネを強奪し、彼が王宮へ連れ帰る、慎みと愛で、ヘレネの姿はいよいよ美しく。」などです。

 ドーミエがこの古代のトロイの物語をつかって当時の何かを風刺しているのでしょうが、腹が出た二人の姿には思わず笑いがこみ上げてきます。  ドーミエに興味を持ちましたので、早速昨日アマゾンでドーミエに関する本ードーミエ諷刺画の世界 (岩波文庫) を発注したところです。

3) 柿衛文庫を楽しむ

 江戸時代は酒産業で栄えた伊丹は、一方で俳諧文化が花開き、頼山陽をはじめとして文人の往来が多くありました。このような中ではぐくまれた文化遺産を故・岡田利兵衞(俳号・柿衞) が収集したものを土台にしたのが柿衞文庫です。

 美術館は柿衛文庫と併設されていますので、今回は、この文庫を見ることにしました。
 もともと文学にはまったく興味がない私でしたが、芭蕉、西鶴、漱石、蕪村などの自筆の句短冊を見て、このような字を書いたんだなと興味を感じました。

 左図は松尾芭蕉の有名な俳句「古池や蛙飛込水の音」ですが、流れるような芭蕉の字は実に美しくしいですね。

 なお、同時開催で、今森光彦の写真展が開催されています。里山の美しい写真にあふれていました。





4) みやのまえ文化郷でくつろぐ

 美術館の庭を出て、左側に大きな古い館(左図)があります。それが、旧石橋家住宅と旧岡田家住宅の2つが並んであります。 

 どちらも伊丹が酒造で栄えた江戸時代の建物です。特に、岡田家住宅は、現存する最古の酒蔵で、重要文化財となっています。 

 家の中にはボランタリーの方々がおられ、目と目があうとすぐに「2つの家の歴史や伊丹」について優しく説明をしてくださいます。畳にすわってゆったりとこれらの説明を聞くことも楽しみの一つです。 

 現在は、「鳴く虫と郷町」というテーマでイベントが開催され、あちこちで虫の音を聞くことができます。なお、工芸センターのアクセサリーや陶器が直販されていますので、多少のお金を持っていかれることをお薦めします。素敵な焼き物やアクセサリーえお安価で購入することができます。
文化の香りいっぱいのアートシーンを楽しむことができるところです!
合掌 山さん

2008年9月21日日曜日

大阪市立美術館


 大阪市天王寺区にある大阪市立美術館を久しぶりに訪問しました。この場所は日本庭園「慶沢園(けいたくえん)」とともに1921年に住友家が美術館建設を条件に大阪市に寄贈したもので、1936年に開館している伝統のある美術館です。

 収集作品は主に大阪市民の寄付で8000点を超える収蔵品があります。現在これらの作品は、常設展で鑑賞することができます。
 
 1979年にこの建物は改修され、レトロ感覚にあふれた建物となっています。慶沢園、天天王寺公園と同じ所にあるので、一緒に楽しむことができます。では、これから、この美術館での5つの楽しみをご紹介します。



1)慶沢園(日本庭園)を楽しむ
 住友家が10年歳月をかけ、1917年に完成した小川治兵衛の作庭による林泉回遊式の日本庭園です。 

 この庭園を見るには、天王寺公園からトンネルを抜け、フェルメールの小径(愛称)の途中に慶沢園南口がありますので、そこから入ります。 

 大阪の都会の真ん中にこんな公園があるとはなんとも不思議な感じがします。都会の中のオアシスですね。 真ん中に大きな池があり、周りを周回できるようになっています。途中に小さな滝も作られており、心を癒してくれます。美術館に入る前にぜひ見ておきましょう。




2)企画展(佐伯祐三展)を楽しむ
 現在大阪市立美術館では、パリで30歳の若さで夭折した佐伯祐三(1898~1928)展が開催されています(9月9日~10月19日)。 

 佐伯の画業を5期に分けて、本人の作品139点、関係者の作品19点が展示されています。
  
 1.凝視する自己・自画像の時代(1917~24年)
 2.ヴラマンクとの出会い(第1次パリ時代 1924~26年)
 3.帰国時代(1926~27年)   
 4.燃え上がる情熱、パリ(第2次パリ時代 1927~28年)
 5.画家佐伯祐三、最後の三ヶ月。モラン、そして死(1928年)

 1人の画家の作品を139点集中してみていると、そこにはアーティストの苦闘の人生が見えてきます。パリでブラマンクから「アカデミック!」と一喝され、それを克服しようとした佐伯。確かにブラマンクの「雪の風景」と比較すると、佐伯の未成熟な部分が見えてきます。 

しかしながら、1928年の最晩年の作品は、ブラマンクの一喝を超えた頂点の作品が生まれてきます。

 それが、上の「煉瓦焼」です。 
 墨のような黒い三角形の屋根と縁取り、青い空とレンガ色の対比、細い線で描いた階段、平面の屋根と壁、遠近のレンガの階段が見事に調和しています。 この絵が一番私にとっては佐伯渾身の作品と思えました。さん然と光輝いている作品です。

 この作品に出会は私にとって人生の至福のときでした。 
 佐伯の自画像(1919年)の裏に次のような言葉が書いてあります。

 「 クタバルナ  
  水ごおりをしてもやりぬく  
  今にみろ  おれはやりぬく  
  やるぬかねばをくものか  
  死-病-仕事-愛-生活」 

 すさまじい言葉です。これらの作品を見終わると、佐伯の気迫に圧倒されて最後は疲れ果ててしまいました。

3)常設展でくつろぐ
 佐伯の気迫に疲れ果てた私は2Fの常設展へ行きました。そこには、日本近世写生画の大家の作品、円山応挙と伊藤若冲の作品、近世文人画の池大雅と浦上玉堂の文人画、そうして村上松園の「晩秋」をはじめとする近代日本画が展示されています。 

 これらの作品の前に立つと、不思議なくらい心がリラックスしてきます。佐伯の疲れを吸い取ってくれる力がこれらの作品にはありました。
 
 私が好きな作品は、松園の「晩秋(左図)」です。

 幼いころに見た母の姿を題材にした作品で、女性の品格の高さを見事に表現しています。私にとっては佐伯とは対極に位置する作品でした。見る人の心を癒す凄い作品です。




4)大阪市立近代美術館コレクションを楽しむ
 大阪近代美術館がまだ仮住まいをしているために、大阪市立美術館でこれらの作品72点が現在展示されています。 

 モジリア-ニの「髪をほどいた横たわる裸婦」をはじめとして、1900年代の質の高い作品がコレクションされています。 

 今回私が感動した作品は、チャック・クロース(1940年~ )の「ジョー(左図)1969年製作」です。最初はでかい写真(2.75mX2.145m)かなと思いましたが、実はアクリル絵具とエアブラシで描いた作品です。 

 これらの作品は「スパーリアリズムリアリズム(写実を超えた、迫真のリアリズム)」と呼ばれているそうです。

 1988年に半身不随となり車椅子の生活を余儀なくされていますが、現在も、絵筆を歯でくわえ、手に筆を縛り付けて精力的に制作活動をしている人です。 
 
写真を利用して、ドットレベルから再構成した作品は、リアリティを超えて不気味なものさえ感じます。


5)榴樹(ルージュ)でリラックスする
 美術館の2階には「榴樹(ルージュ)」という喫茶コーナーがあります。

 またB1には同じ名前のレストラン「榴樹(ルージュ)」があります。 

 昭和の雰囲気を感じさせる場所です。
芸術作品をみたら、これらの場所で、レトロな雰囲気に浸りながらリラックスをしましょう。


大阪市立美術館は、刺激と癒しに溢れたレトロ感覚の美術館です!特に、この秋は、佐伯祐三の芸術に対する強烈なエネルギーを感じることができますよ。

合掌 山さん