
展示をみてみると、巨匠といわれる画家達の作品が数多く展示してありました。が、どうも私の心を響かす「なにか」を感じることが出来ません。
どうしてでしょうか?
おそらくハクスブルグ家の収集家達のアートに関する価値観と私の価値観が異なっているのでしょう。貴族の好きな絵画と私の好きな絵画は大きく異なっているのでしょう。
特に肖像画は自己顕示欲のオーラがあり、楽しめることが出来ませんでした。エリザベートの美しさは言うまでもありませんし、その画家(フランツ・クサファー・ヴィンターハルター)の表現力も見事です。でも、それだけで、見ているものの心に響くものがないのです。

イタリアルネサンス期のジョルジョーネの「矢を持った少年」のうつろな心を表現している力量は見事ですね。
次に注目したのはエル・グレコの「受胎告知(ブタベスト国立西洋美術館)」です。すごい作品と言うよりは、わたしにとって安心できる作品です。
2年前に、レオナルドの「受胎告知」を見ましたが、大天使ガブリエルのマリヤに対して発せられる光(恐れるな、マリヤよ、あなたは神から恵みをいただいているのです。)とそれに応じるマリヤの視線(どうして、そんな事がありえましょうか。私はまだ夫がありませんのに。)が真っ直ぐぶつかり合っているすさまじい緊張感のある作品でした。
おそらくこの葛藤をレオナルドは表現したのでしょう。
それに比べてグレコの作品は、安らぎがあるのです。

それゆえに、生まれ出る子は聖なるものであり、神の子と、なられるでしょう。」と言い、それに対してマリヤは「私は主のはしため(サーバント)です。お言葉どおりこの身に成りますように。」と返事をしました。
このことをグレコは見事に表現しています。そこで表現されているのは、天使の言うことに葛藤がありながらも受け入れたマリヤの安堵感と覚悟ではないでしょうか。
この作品から発せられる安らぎはここにその理由があるかもしれません。
そのようなことを考える中、たしかこの絵は「大原美術館」にあったのではということを思い出しました。そこでいろいろと調べてみました。

そうするとざくざくとグレコの「受胎告知」がでてきたのです。
取り合えず、5作品を並べてみました。
一番上は今回展示されている作品で現在ブタペスト国立西洋美術館にあるものです。
2番目は、日本人になじみのある大原美術館の「受胎告知」です。上の作品に比べて、よく見ると、微妙に違いがあります。
大原美術館の作品は、色が深く、聖霊を表す「はと」の後ろの光が大きいことが特徴です。また、後日追加された光輪があります。
インパクトのある作品となっています。
なお、この作品は息子や助手が作成したと言う話もあります。
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4番目は、アメリカのトレド美術館にあるものです。ブタペスト美術館のものと似ていますが、マリヤの横に柱のようなものがあります。
最後は、スペインのプラド美術館にある「受胎告知(315cmx315cm)」です。この作品は、非常に大きく、マリアが立っており、ガブリエルは両手を胸にあて、天上界で天使達が楽器を奏でていす。全体的に迫力がある作品です。
一つのモチーフであっても多くの作品があるものです。それぞれにおもしろい物語があるのでしょうか。
グレコのいろいろな「受胎告知」は下記のURLをクリックしてください。
http://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Annunciation_by_El_Greco

合掌 山さん